第194回:ひいきの採用・昇給のすすめ

日本では参議院選挙が22日に公示されました。投票権のある日本国民が責任を持って投票に行くことが促されています。在外選挙制度の下、シンガポールでも選挙権を持つ在外邦人は投票することができます。

在シンガポール日本大使館内に特設会場が設けられます。参院選では円安、物流費やエネルギー価格、原料材料費の高騰による物価高などが大きな争点になっています。

シンガポールでも消費者物価指数(CPI)は今年に入り上昇基調が続いており、食品やエネルギー価格を中心に物価が徐々に上がっています。

人事代行サービスを提供している弊社では、昇給率に関する問い合わせが多く寄せられます。「同じ業界内の昇給率はどうか」「他の日系企業ではどうか」といった狭い市場内での数値を確認しようとする傾向がみてとれます。

相対的に比較したいのであれば、外資系を含む全体的な労働市場の動向を確認すべきかと思います。とはいうものの、日系企業としては他の日系企業の動向を知りたいのはやまやまでしょう。

日系の複数の企業・団体が実施している賃金調査の結果を参考にするケースが多いのも確かです。日系企業の中には、日本の昇給率とリンクさせている企業もあります。昇給率を一律1.5%とし、現地の相場よりも低い水準にする企業もありました。

結果として、社員の大量辞職が発生しました。企業は、従業員を引き付けるために給与水準や昇給率に十分配慮する必要があります。これは新規採用者についても同様です。

シンガポール政府は大半の新型コロナウイルス関連の規制を撤廃しました。経済活動が通常に戻りつつある中、多くの飲食店で人手不足が深刻化していますが、なかなか人が集まらない状況が目立ちます。

一般企業でも「アフターコロナ」時代の業容拡大を見据えて採用ニーズが高まっていますが、適任者がなかなか見つからない状態が多くみられます。

「適任」と思われる候補者が出ていた場合は、「ひいきの採用」をおすすめします。「ひいき」というとマイナスのイメージがありますが、辞書を見ると「気に入った人に特に目を掛け世話をすること」とあります。つまり人事では、良いと思った人の待遇を厚くして採用することです。

「既存の社員とのバランスがあるし」と悩む方もいますが、既存社員も能力によって「ひいきの昇給」で行えば良いのであって、人事政策上は間違っていません。現地スタッフは「能力が高い人が高い給料をもらうのは当たり前」と考え、給与・ボーナスに差がないとかえって「不公平」 と思う傾向があります。

ここぞという時には相対的に平均化するのではなく、思い切って「ひいきの採用・昇給・昇進」をしてみるのはいかがでしょうか?

弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年6月23日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。