第195回:MICE市場で人材重要復活の兆し

人事代行サービスを提供している弊社では先ごろ、9月に開催予定の展示会で通訳手配の依頼を受けました。

こうした仕事の依頼は久しぶりです。2019年の夏ごろには大規模な展示会のスタッフ(受付、通訳、マーケティング担当者等)手配の依頼を受け、20年3月末から4月初旬にかけて開かれる大規模イベント向けに派遣する予定でした。

ただ20年2月ごろから新型コロナウイルスの感染が広がり始め、その後の感染爆発に伴い、当該イベントは開催中止となりました。既に商材をシンガポールに空輸してしまった出展者がいたほか、日本が年度末ということもあり、弊社に通訳料を先払いしてくださっていた地方自治体もありました。

シンガポールはコロナ禍前まで域内でも有数のMICE(会議、視察、国際会議、展示会・見本市)開催地でした。一つの展示会で数億Sドルを超える経済効果があると試算されています。

それが過去約2年はほぼ「ゼロ」となり、弊社を含めMICEに関連する事業を手がける業者は大打撃を受けました。ようやく最近になって大きな展示会が開く動きが広がっています。

MICEのうちM(ミーティング)は、企業などが関係者を集めて開く会議やセミナーです。コロナ禍前には実業家の堀江貴文氏がマリーナ・ベイ・サンズで会員制のセミナーを行い、日本からも多くの人が参加していました。

このように国内外から人が集まる会議・セミナーは、シンガポールにとって経済効果が見込めます。I(インセンティブ)は、主に企業が開催する従業員向けの報奨・研修旅行です。従業員引き留め(リテイン)施策の一環として、最近注目されています。

コロナ禍が収まってきたこともあり、日本からシンガポールに向けた研修生派遣も活発化してきました。日系企業が研修を兼ねて従業員をシンガポールから日本に送る報奨旅行も復活しています。

弊社の顧客企業では、3年ぶりに選抜されたシンガポール人スタッフ3人が報奨旅行で日本に行くことになりました。ただ、日本入国に際し「外国人新規入国」の申請をする必要があり、かつてのように自由な往来は依然として難しい状況です。

C(コンベンション)は大規模な国際会議です。6月にはシンガポールでアジア安全保障会議が開催され、日本の岸田文雄首相も出席しました。コロナ禍前には、米国のトランプ大統領(当時)と北朝鮮の金正恩総書記がシンガポールで米朝首脳会談を開いたことはまだ記憶に新しいところです。

シンガポールの地の利や治安の良さ、政治的な中立性が大規模国際会議の開催地に適しているということでしょう。

E(エキシビション)は展示会や見本市、イベントです。イベントを取り仕切る業者や出展者の移動を手配する旅行会社、会場設営を行う施工会社、イベントを宣伝する広告代理店のほか、英語が話せない出展者のサポートのため通訳を派遣する弊社のような企業など、幅広い分野の業者が関与しており、雇用創出も期待できます。

今後シンガポールで行われるMICEが増えることで国内経済の発展に貢献し、イベント関連業者が活躍できる場も増えていくことを期待します。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年7月7日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。