第203回:外国人労働者の増加

10月31日はハロウィーンでした。シンガポールでは特に大きなイベントはなく、近所の子どもたちが発光ダイオード(LED)が入ったかぼちゃ型のランタンを持って歩いているのを見かけた程度でした。

一方、韓国では雑踏事故で日本人2人を含む多数の死者が出てしまいました。日本の渋谷も大勢の人で混雑し警察が事故防止対策を強化していました。

最近は、各種イベントが新型コロナウイルス禍を経て「3年ぶりに開催」という言葉をよく見かけます。シンガポールではワクチン接種済みの外国人観光客を受け入れており、先ごろ実施された自動車レース「F1シンガポール・グランプリ(GP)」では大勢の外国人が訪問し、ホテルの稼働率も上がりました。

今後行われる大規模イベントには年末年始のカウントダウンがありますが、シンガポールでは観客が殺到しないよう臨時の鉄製の柵を並べるなど人の流れが管理されているように見受けられます。

コロナ禍が落ち着き、各種イベントが「3年ぶり」に復活するなど、経済活動の正常化は進みつつあります。これに伴い、シンガポールでの就労を目指す外国人も増加しつつあり、弊社でも日本からの問い合わせが増えてきました。

シンガポール人材開発省が発表した最新の外国人労働力統計によると、専門職向け就労ビザ(EP)の保有者数は2022年6月時点では16万8,000人となり、21年12月時点から、7,100人増えました。

EP保有者数は19年以降、年々減少していましたが、22年6月時点ではコロナ禍前の19年12月時点の87%の水準まで戻っています。

今年9月1日からEPの新規取得に必要な月給の最低額が従来の4,500Sドルから5,000Sドルに引き上げられ、基準改定前に申請の「駆け込み需要」があったことも考えられます。現地採用よりは、住宅手当などが会社から支給される駐在員の増えたこともあるのかもしれません。

中技能熟練労働者向け就労ビザ(Sパス)の保有者は6月時点で16万9,200人となり、21年12月比で5%増えました。こちらも9月から新規申請の最低給与条件が従来の月2,500Sドルから3,000Sドルに改定され、「駆け込み需要」があったことがうかがえます。

以前はEPが取得できないためSパスを取得する動きもありましたが、Sパス自体も年齢が高くなるにつれて月給を4,500Sドル程度まで引き上げないと簡単には取得できなくなりました。

今回の統計で顕著だったのは、メイドを除く単純労働者向けの就労ビザ(WP)保有者の増加です。21年12月時点と比べて5万1,000人増の36万9,400人となり、19年12月時点の数値とほぼ同水準でした。工期がかなり遅れていた建設現場で働く出稼ぎ労働者を受け入れた結果でしょう。

街中では、MRTの新線の工事や高層住宅の建設などあちこちで見かけるようになりました。こうした建設活動もコロナ前の状況に戻りつつあると肌で感じます。

一方、大きく減少した数値もあります。「その他の就労ビザ(Other Work Pass)」のカテゴリーです。主に家族ビザ(DP)保有者が就労するために取得していた就労承諾書(LOC)の取得が困難になったことが影響し、21年12月比で11%減の2万4,400人となりました。

LOCを取得するには個人事業主となり、シンガポール人を雇用(CPFの拠出が必要)しなければなりません。今後は国民の雇用を守る政策を取りつつも、経済回復に伴い外国人労働者を受け入れ、ビザ認可件数を必要に応じて増やしていくことが予測されます。

こうした点については、今年12月時点の外国人労働力統計の発表時にまた解説いたします。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年11月3日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。