第205回:年末賞与の付与について

今年も残すところあとわずかです。ちまたでは「今年は特に時が過ぎるのが早く感じられた」との声が聞かれます。2022年前半はまだ新型コロナ禍の影響がありましたが、厳しい行動制限が4月ごろから徐々に緩和されました。

かつては入国許可証の取得義務などがあったシンガポールへの入国制限も基本的になくなりました。その後、国内経済も徐々に回復しています。インドネシアやインドを中心に観光客数を増え続け、最近ではスーツケースを引いている人をよく見かけます。

国内消費もショッピングモールがにぎわうなど堅調で、コロナ禍で消費できなかった分を現在使っている繰り延べ需要の効果がみられます。弊社には流通業の顧客が数社ありますが、売り上げ増加とともに頭を悩ませているのが、従業員の確保です。

数店舗をチェーン展開している企業では、マンパワーが足りない店舗に臨時出張で人を派遣することで穴埋めをしています。パート勤務の従業員の中には、他社の時給が高いので半月で転職した人もいました。

飲食業でも人手不足は深刻です。以前は時給10Sドル程度でスタッフを募集する店舗が多くみられましたが、現在中心部では15Sドルという店も出てきています。

また臨時採用したアルバイト店員は研修が十分施されておらず、筆者が訪れたある日本食レストランでは、注文と違うものが出てきたり、会計を間違ったりするなどの混乱がありました。アルバイト店員側も、雇用主が「教える時間がない」といった対応をしていれば、給与や待遇面など他に良い条件がある店に流れていってしまします。

人手不足を補うためにアルバイトを雇ったにもかかわらず結局退職してしまい、また新規採用をせざるを得ないというストレスのたまるスパイラルに陥ってしまいます。

12月に入るとパートだけでなく、正社員の辞表提出も目立ってきます。その理由の一つとして、中華系マレーシア人が、23年1月末の旧正月を家族と長期的に一緒に過ごしたいという考えから、本帰国してしまうケースです。実際に弊社の顧客でも、こうした理由で退職したベテラン社員がいました。

その他の大きな理由では、「ボーナスをもらってから辞める」という点が挙げられます。企業によって支給月はさまざまですが、日系企業の大半は年間賃金補助(AWS)を12月に支給しています。

AWSは13カ月目の給与とも呼ばれており、企業に支給の義務はありません。雇用契約書の中にはあえて記載せず、別添で就業員就業規則の中に、「会社の業績により支給~」などと明記します。

また支給は1カ月分とは限りません。ある弊社の顧客は評価に応じてAWSを分配しています。支給対象に関しては、12月に辞表を提出した人にAWSを出さない企業と、支給日に在籍していれば出す企業に分かれます。

中途入社のケースでは、起算日を入社日にするのか、あるいは試用期間終了後にするのかを明確にする必要があります。弊社の顧客で12月に退職者が出るケースがいくつかありますが、上記のような例を理解していないと、12月に辞表を出してもAWSが支給されない可能性があります。

企業側も1年間勤務した従業員をねぎらうことができるよう、雇用契約書や就業規則をしっかり準備しておくことが重要です。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年12月8日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。