第25回 ASEAN進出企業のジレンマ:その12 撤退事例その2:現地に合わないモノ

最近のニュースで目を引いたのは、「東芝、シンガポールで家電販売から撤退」という見出しでした。

東芝といえば日本の超長寿アニメ「サザエさん」のメーンスポンサーであり、子供の頃から東芝製のポット、電子ジャー(言い方が古い?)、電子レンジのCMをよく見ていた記憶があります。

家電以外のノートブックPCなどは引き続き販売するとのことですが事実上のシンガポール市場からの「撤退」には驚きました。撤退理由としては、明言を避けていたものの、中国や韓国メーカーとの競争激化が要因の一つであることが考えられます。

研修ビジネスを行っている私の友人が某日系電機メーカーの海外短期研修を請け負いました。

研修の一環として、日本製品や、日本の飲食業が現地でどのような展開をしているのかのフィールド・スタダィーを行ってみたところ、日本製の白物家電が角にダンボールゴミと一緒に追いやられているのを見てショックを受けたとのことです。日本の家電量販店では全く見られない光景だったそうです。

実際、お店の中心に居座っているのは韓国や中国、欧州(オランダやスウェーデン)の製品で、お店としても「売れ筋」を全面に押しているようで、「日本製の家電は一応日本製<も>売っています」のような感があります。

我が家の洗濯機が壊れた時も韓国製を買いました。個人的には日本製を買いたかったのですが、韓国製の方がいわゆる購買時のコスパ(コストパフォーマンス)が優れておりほぼ2倍の値段をつけている日本製より<たかが>洗濯機に多額のお金を使う必要はないということと、主婦層にウケる「プレゼント」(地元大手スーパーの商品券)がついていたので、普段使う人間の決定に従うしかありませんでした。

では、なぜ日本家電製品の立場が急激に悪くなってのでしょうか?

それは一言で言いますと「現地に合わないものを出していた」だと思います。日本では家電量販店で韓国製品がほとんど見当たりません。何故なら日本での家電製品は世界最高峰でありアフターサービスもしっかりしており、また価格は日本製メーカー同士の競争が存在しているだけだからです。

私が日本に帰った時に母親に液晶テレビをプレゼントする際には、真っ先に東芝製を選びました。クオリティー、価格、即日無料配達・設置など文句なしの一品でした。

一方東南アジアでは、勿論MADE in JAPAN は人気のブランドです。

ですが、価格競争やプロモーションなどのマーケティング戦略では中国・韓国製品に負けてしまっているような気がします。日本製品は付加価値がしっかりしており、それに見合った価格で販売網を拡大していきましたが、「現地のニーズに合わないモノ」を置いていても、顧客の購買意欲は薄れていきます。

インドでのエアコンは「弱・中・強」の3つのボタンがついていて安ければ売れると聞いています。その国でのその国のニーズに合ったものを作り売るだけです。「現地に合わないモノの押し付け」ではいくら日本製が優れていたとしても、なかなか購買意欲にはつながりません。

前述の研修会社が現地家電量販店視察の後に食事を現地の「吉野家」で食べることにしました。勿論、定番の牛丼(BEEF BOWL)はあるものの、エビフライ丼、サーモン丼、ビーフラーメン、ビーフカレーまであり驚いたそうです。

日本でも最近は健康志向もあり野菜丼を始めたとのニュースがありましたが、時代や現地の顧客のニーズに合ったモノを出していくことはスピード感ある競争を勝ち抜くために必要不可欠なことではないでしょうか?

Daily NNA 2015年5月28日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。