第27回 ASEAN進出企業のジレンマ:その14 撤退事例その4:現地に合わない値段

最近シンガポールではちょっとした変化が起こっている。その一つとして「不動産」があります。

不動産は「オフィスの物件」と「賃貸物件」があります。オフィスレンタルに関しては場所によりけりではありますが、弊社の入っているONE RAFFLESは3年前の契約後7月に更新を迎えましたが市場価格に合わせ大幅にアップさせられました。

確かにオフィス相場は下がっておらず、「嫌なら出て行っても結構」的な扱いを受けました。新規に移るコストよりは安いのと物件的には良い場所であるので一応「死守」しました。

一方、賃貸は下降傾向にあります。

弊社で進出をサポートさせて頂いている駐在員の方のビューイングを行いました。どこもオーナー側のエージェントが必死で、本当かどうかは分かりませんが、「2年前は家賃が7,800ドルしたが今は4,800ドルになった」と言っていました。

確かに都心部、高層、2ベッドルーム築5年以内の準新築物件で4,800ドルは最近では見ませんでした。

またとある現地採用のGM職の方が最近家探しを始めました。現地採用歴は長い方で40近いのですが、ずっとルームシェアーをしていましたが最近物件が下がり始めたのを契機に若干シティーエリアから遠いものの1700ドルで契約をすることにしました。2年前までは3000ドルの物件がほぼ半額になっていたようです。

このようにシンガポールでは値段が需給バランスの元にドラマティックに変化していきます。地元のニュースも常に「値段のニュース」が多く世界の山が噴火していても先ずは不動産の価格や、COE(新車購入権)が先に報道されます。

不動産価格の低迷は雇用にも影響しており、民間住宅の販売低迷が、宿泊・外食サービスと不動産サービスの就業者数の減少につながっています。

私の友人も不動産エージェントを個人で行っていましたが取引がほとんどなくなったとのことでビルマネージメントの会社に転職しました。潮目をみるのが早く転身も早いのもシンガポール風です。

さて、今回の撤退事例は「現地に合わない値段」です。シンガポールは一人あたりのGDPが2014年の統計時では5万3千USドルを超えており日本人一人当たりのGDP3万7千USドルを超えておりいかにも「リッチ」な印象を受けます。日本での市場の縮小も踏まえとにかく進出すれば儲かると言った「神話」に惹かれ進出してくるサービス業もいくつかあります。

その一つとして「ラーメン店」があります。シンガポールでは日本のラーメンは人気の食事で有名なお店には長蛇の列ができます。一方、全く流行っていないお店も存在します。値段を見ますと、全て「込み込み」でS$25を超えているラーメンもあり、円安の影響もありますが日本円で2300円を超えており、また味は普通ということで大丈夫かな?と思っていましたら案の上撤退していました。

コストをカバーする為には値段を上げる必要もありますが、値段(コストパフォーマンス)に敏感なシンガポール人には通用しなかった一例です。

また先般撤退してしまいました日本では有名な雑貨小売店もS$60のバスタオルを置いていました。

現地の方々は皆HDBという集合住宅に住んでおり、特にトイレまわりは日本のように整理整頓されていません。また下のおばちゃんお経営している小売店で同じようなバスタオルがS$6で買えます。雑貨に関してもラーメン一杯にしても現地に合わない価格設定をしていますと「高い」印象だけが残り客離れが起こり撤退という形になります。

やはりトイレタリー雑貨を売るのであれば、現地の一番平均的な家のトイレルームを覗いてみる等の真のマーケティングは必要ではないでしょうか?

Daily NNA 2015年6月25日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。