第29回 MOM(人材開発省)の最近の発表:その2 外国人の家族ビザの規制

日本では2020年に向けたオリンピックに向けて建設予定であった国立競技場の建設が白紙に戻り、開閉式の屋根を付けずにプランの練り直しをするとのニュースが日本だけでなく世界を駆け巡りました。

斬新なデザインは確かに目を見張りますが、建設費用がほぼ2倍の2500億円を超えることになり結果「やり直し」となりました。こうなるのでしたら元の国立競技場を壊さずに改装していけばよかったのにとも思いました。

さて、シンガポールの2020年と言えば、マレーシアの首都のクアラルンプールと1時間半で結ぶ「新幹線」のトピックがあります。

まだ日本式を取り入れるかは未定ですが、安部首相もマレーシアのナジブ首相に直接売り込み、産業界もJR東日本を初め、新幹線技術を持っている企業群「オールジャパン」で受注を取る努力をしています。

やはりと言うか、結局2020年までの完成は「難しい」ということになりました。また、シンガポールサイドの駅の場所もジュロン・イースト地区と言うだけで、まだはっきりと決まっておらず、ましてマレーシアはどこに停まらせるかも決まっていません。

前向きに考えますと、これからじっくり計画を立てて完成目標を発表するとのことでより現実的になるとのことです。こちらの2020年はどうやら2022年になりそうです。

さて、またもやMOMから外国人労働者の規制強化の発表がありました。EPやSパスを取得した外国人とともに入国する配偶者や21歳未満の子どものための扶養家族ビザ(DP)を申請する際の月収下限を現行の4,000Sドルから5,000Sドルに、両親や21歳以上の子どものための長期滞在ビザ(LTVP)の場合は同8,000Sドルから1万Sドルに改定すると明らかにしました。

驚くのはそのスピードで2015年の9月1日以降の申請からスタートということです。

前の号でEPとSパスの申請で学歴や職歴に虚偽ある事が発覚し却下された場合は生涯に渡りシンガポールでの就労を禁止することをお伝えしましたが、今度は家族ビザの取得条件まで規制を入れてくることに驚きました。また朝令暮改的な改訂に外国企業・外国人労働者は常に変化に対応していかなくてはなりません。

日本人の現地採用の給与は企業が求めるスキルの向上と共に上がってきていますが、4000ドル台の家族を帯同している現地採用社員も数多くおります。

最近マレーシア人の友人の奥さんがシンガポールで仕事を探したいとの事でDPを取得してLOC(Letter of Consent)を取得して働きたいと言われましたが、その彼の給料は5000ドルには達していないことから、彼の奥さんは自ずとしてシンガポールでは合法的には勤務できないばかりでなく、家族として住むこともできないということになります。

今回の改訂については、EPやSパスの保持者が家族を養えることを確実にするためと説明していますが、規制には間違いなく、このような事が果たしてシンガポールの労働市場にとって何かいい効果があるのかどうか疑問です。

シンガポール政府はプロパガンダ的に「政府は引き続き、高い技能を持った専門職の外国人が家族を帯同することを歓迎する」と言っていますが、それがイコール給与額なのかどうかも疑問ですし、EP保持者の個人事業主の場合、自ら高い給料を設定していないケースも多く、家族を支えられないのならシンガポールでの事業を諦める人も増えてくるのではないでしょうか?

かつては外国から起業家を呼ぶことに一生懸命だった国が、規制まみれにし、カネのない家族帯同の斬新なアイデアを持った起業家の卵を追い出してしまうことに危惧を感じます。

Daily NNA 2015年7月30日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。