第39回 やっぱりワーカーがいない

今年も残る所あと一週間になってしまいました。

回りの方からの意見の大半は「今年は早かった」でした。それだけ目まぐるしく忙しかったということでしょうか?欧州や豪州の友人達は子どもたちの学校が12月の第二週で修了する事が多く先週の半ばに本国に帰ってしまいました。

「暑い中でのクリスマスは嫌だと半分ジョークで言っていました。彼らはクリスマスが過ぎると「普通の人」になって戻ってきます。今年は28日が月曜日となっていますのでその前日の日曜日に戻ってきて31日まで普通に仕事をします。

一方、日本人は今週21日から24日にかけて帰る人が多いです。大抵の日本人はクリスマスより「お正月」が大切ですので今回はカレンダーの並びが良いこともあり、仕事納めは28日~29日で1月3日の日曜日まで休暇を取り、1月4日仕事始めという方が多いです。

とにかくシンガポールから国外に出る人は「西洋人」と「日本人」では微妙にタイミングがずれています。フィリピン出身のメイドさんもクリスマス休暇を取りますのでほんの少しの期間ではありますがシンガポールの人口が少し減ります。「居残組」としてはいつもより空いているシンガポールを満喫できます。

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さて、最近のニュースで、シンガポールの西部に建設された総合病院の完成が計画より半年ほど遅れたとのことで、韓国の施工会社に違約金を払わせる交渉を行っているとありました。

その金額は1日につき10万ドルで、一月300万ドル、半年で1,800ドルとなるようです。受注額は7億ドルほどですがその内の約3%が違約金となります。施工会社は完工の遅れの理由を「現地の熟練工不足」を一番に上げていました。

シンガポールの奥さんを持つ私の友人はHDBを4年前に購入し、昨年の3月から住めることになっていましたが、完成が遅れようやく20ヶ月遅れで「鍵」をもらいました。

昨年3月、が9月、それが今年の7月そしてやっと12月に「鍵」をもらいこれから家具を入れていくので住めるのは来年2月頃と言っていました。

工期の遅れは「ワーカー不足」で、遅れに関しての政府から彼らへの「違約金」は一切払いません。あくまでも予定とのことですし、文句は言えないとのことで待つしかないとのことです。

共通していることは「ワーカーがいない」です。シンガポール政府は建設業界に対して「生産性を上げろ」と叫び続けて外国人労働者の10%以上を熟練建設労働者にすることを2017年から義務付けるようですが、そもそも昨今の極端な流入規制の結果、建設労働者が不足している中どのように「熟練工」を義務付けるのは疑問です。

そのため上述病院や友人のHDB以外にも多くのプロジェクトの完工が遅れており、長年シンガポールに住んでいるものとしてはずっと同じ所を工事している印象が強くなってきました。

シンガポールは外国人が150万人おりその内の約3分の2の約100万人がWP(ワークパーミット)保持者でまたその内の3分の1の約33万人が建設労働者です。つまり外国人全体の外国人の総数の2割以上が建設労働者です。

筆者の友人がプラント建設向けに建設労働者を派遣する仕事をしています。

しかしながら雇用税も給料と一緒に顧客に先立って立替をする為、顧客からの支払いが遅れますとキャッシュフローが悪化し大変な事になると言っていました。そのためかつての様にワーカーをたくさん雇ってもらう頭数で儲ける派遣システムも既に儲かる構図ではなくなってきており、建設労働者を派遣する会社の廃業も目立ってきております。

日本でもようやく新国立競技場の建設が決まりましたが、工期通り行くのか、建設従事者の確保はできるのか、残りの4年間を見ていきたいと思います。

Daily NNA 2015年12月24日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。