第46回 人事担当者のお悩み その6 給与の減額

日本では九州の熊本県を中心に大きな地震が立て続けに来ています。津波はないものの甚大な被害が起きています。また海の向こうのエクアドルでも大規模地震が発生し多数の死傷者が出ています。

大きな災害が起きても日本では「皆困っているのだから・・・」と助け合う一方、他の場所では商店から商品の略奪がいつもニュースになり災害時でも心の持ちようが全く違うことに気付きます。

とにかく国がどこであれ被災した方々の早期の回復・普段の生活に戻れるよう祈るばかりです。

さて、今回のお悩みは「給与の減額をしたいのだけどどうしたら良いか」の質問です。

この日系企業は関西にある中堅機械メーカーで社員は数名います。その中にセールスエンジニアとして現地採用の日本人と現地シンガポール人の部下がおります。競争が激しい分野ですので会社としても現在経営状態が大変厳しく、「コストカット」が命題になっているとのことです。

「コストカット」を行う上で必要なことは勿論ムダをなくすことです。例えば、購読物を減らす、賃料の安いところに移転する、等固定費を減らすことです。次に「人件費の削減」となります。

当該企業の現地責任者は経営経験があまりなく、常に日本の本社の意向を気にされています。とにかく「コストカット」をしなさいと言われれば、少々パニック気味になり何とか推進しようと意気込みます。

当然現地法人を任されている以上、本社の意向には逆らえず推進をしなければなりません。

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そこで今回相談を受けたのは「今いる社員の給料をカットできないか」です。

シンガポールの場合は、現地社員は「雇用契約書」に書かれている事項が双方合意した事項であり、給料に関しても双方が合意すれば基本的には問題はありません。

今回の対象者は現地採用されている日本人社員Cさんで、EP取得の関係上高い給料をセットしていましたが、パフォーマンスが出ない事と業績悪化に伴うコストカットをしなければならない状況下、「給料の減額をしたい」とのことです。EP取得の際には必ず、月額給与に関しては変動がなく、業務評価に関わらず宣告した給料を払う必要がある、またこの月額給与にはボーナスやセールスコミッションを含まないとあります。

つまりEPを取得するための給与額を途中で変更することはできないということで、どうしても減額したい場合はMOMの再審査が必要ということです。社員にはいてもらいたいけど、給料の減額をしたいというのは経営層のエゴであり納得する従業員は多くはないでしょう。

日本の場合は、労働基準法91条で社員が不正等を行った場合、懲戒処分の「制裁」ということで最大10%の減給は認められています。但し業績悪化に伴うものとは意味合いが違いますのでそこを拡大解釈されると経営側の濫用にもつながりません。

この現地責任者はとにかくコストカットが至上命題である以上、努力をしなければなりませんが、日々セールスで頑張っている人の給料を減額したところで瞬間的にはコストカットになるかもしれませんが、基本的にはモチベーションは上がらず、逆に生産性が落ちるはずです。

それでも「いないと困るからなぁ・・・」的な発想があり、また頑張れば昇給も・・・と言っていますがもはや信用もできないでしょう。本当にコストカットをするのであれば、LAST RESORT(最後の手段)として、雇用契約に基づく労働契約の解除、いわゆる解雇をした方が後々問題は残らないはずです。

シンガポールは幸か不幸か「解雇のしやすさ」が経営者側にとっての大きな魅力となっています。此方もできれば「乱」用は避けて欲しいものです。

Daily NNA 2016年4月21 日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。