第52回 人事担当者のお悩み その12 カウンターオファーの出し方(Part 2)

昨日、南シナ海での中国の海洋進出を巡り、オランダのハーグにある仲裁裁判所が中国の主張を退ける判決を出しました。

中国の「主張」というのは、「南沙諸島は2000年前から中国固有の領土」だというもので、「そのような判決はでっち上げだ」的な対応です。大体2000年前の事を誰がどのように証明できるのかは置いといて、とにかく2000年という数字が出てきた時はさすが中国と思いました。

90年代筆者がヤオハンという国際流通グループで勤務していた際に、とある契約書を管理していました。中国政府側の契約者当人が失脚し、新しい相手側の代表者が来ました。

その際に契約の「やり直し」を強要されました。「俺が結んだ契約でないから」というのが理由でした。中国では「法」はあくまでも「人」が作ったもので、「人」が上だという考え、いわゆる「人治」の発想があります。

今回の裁判を担当したアメリカ人の弁護士は「法」の勝利だと言っておりますが、そもそも「法」の考え方が違う中国当局は一切「負けた」とは思わないでしょう。

東南アジア全域とくにベトナムとフィリピンに大きく関係していくことから、今後もこのニュースには目が離せなくなります。

さて、今回のお悩みは、同じく予期せぬタイミングで「退職願」が出されてどうしようとの相談です。

まず日系企業と欧米企業の単純な比較ですが、日系企業は企業と「人」が契約をします。「御恩」と「奉公」の関係です。一方、欧米企業は、「ジョブ」いわゆる職務分掌(ジョブ・デスクリプリョン)と契約します。「ジョブ」がなくなれば、当然辞めなければなりませんが、「人」と契約している日系企業の場合は、「うちの社員」となります。

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どちらがいいのは別としまして、今回の場合は日系企業での就業経験の無い方からの「退職願」です。

当該スタッフをヒアリングしてみますと、自由な裁量を与えられているポジションのはずなのに、必ず「営業レポート」を作成する必要があり、いわゆる日本式「報・連・相」を一日の最後のタスクとされたことが苦痛の種になっていました。

報告をするのはメールでも口頭でもできるのに、いちいち専用フォームに書き込みすることをタスクとされていて「小学生の絵日記」のようだと言っていました。

勿論、タスクは日系企業でなくどこの企業でもあるはずですが、KPI(キー・パフォーマンス・インデックス)を細かく設定され、達成していないと「何故達成しないんだ」と突き上げられることも何故長期的な視野でみないのか?との疑問・不満が鬱積していました。

当該企業の社長に話しましたところ、かなり驚きました。というのも、成果は出していますし、企業としては「かなり」自由な勤務体系を取っていましたので、報告書を作ることがそれほどまで苦痛の種になっていたとは思いもよりませんでした。

重要なポジションであるが故にすぐに辞めてもらうことはマズイとのことで、正社員のタスクから開放する為に正社員での雇用を一旦解除し、給料をほぼ半額にしてコミッションベースを高くして業務請負でのカウンターオファーを出してみることをアドバイスしました。

その結果「報告」や月の「KPI評価会」から開放され、本人的には稼いだ分だけ企業にも貢献でき、自分の実入りも多くなり労使双方が納得行く内容になりました。雇用形態を変えるカウンターオファーも時にはお互いメリットになります。

Daily NNA 2016年7月14日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。