第55回 人事担当者のお悩み:その14 とある新規進出飲食業の方と・・・

先週8月25日から26日にかけて、また「ヘイズ」(森林火災による煙害)が発生しました。

NEA(環境省)が発表するPSI(空気汚染指数)の予測が一旦は200を超える勢いでした。幸い週末にはひどくならず今週では特に目立った空気汚染は無いです。

思い出すのは3年前のヘイズで、街全体が煙に覆われたような状態で「炭焼き」の匂いがどこに行ってもありました。

日系企業では駐在員の家族を一時日本へ帰国させるほどひどい状態で、PSIはUnhealthyの300の二倍近くの数値で外出はできないほどでした。症状は人それぞれですが、筆者の場合、目が痛くなり、部下の女性は呼吸器官がやられます。

今年はインドネシア政府の努力もあり「ヘイズは無い」と安心していた矢先でしたの一瞬驚きました。シンガポールとしては9月にF-1イベントを控えているので綺麗な空気を何とか維持したいところでしょう。

さて、今回のお悩みは、日系の新規進出を考えている飲食業の方の事例です。

この方は、以前は中堅日系メーカーで普通の「サラリーマン」をされていた方で、出張で訪れたシンガポールの活気と多民族国家の多様性に惹かれて、「脱サラ起業」を目指しシンガポールに来ました。

シンガポールでは趣味の絵画を鑑賞しながらお茶ができる「フージョン・カフェ」のコンセプトで起業の準備を弊社に依頼されました。

シンガポールをはじめとする東南アジアでの飲食業の進出は凄まじく、今はどこの国でも「日本食」を食べることができます。

また現地企業も日本人がまず付けないだろうと思われるレストラン名(タイのバンコクでは「天国の味」というお店を見かけました。)で、日本にない「日本食もどき」が展開されているお店も幾つかあります。

最近ではマレーシアに加え、タイ、インドネシアも観光ビザを取得しなくても日本に入国できる為、気軽に日本に行くことができ、そこで「本物」に出会うことになります。

今回の「フージョン・カフェ」の起業に関しましては、筆者の友人で飲食業の新規進出をお手伝いしている方との共同作業になりました。

まずは「立地」です。この方はまだシンガポールの本当に流行っている人の多い地域しか見ておらず、「ジュロン」ってどこですか?程度の土地勘でした。主要のショッピングモールを見学されることをオススメし、結果「ホーランドビレッジ」に出したいということになりました。彼の趣味である絵画を楽しみながらカフェをするというコンセプトに合致したからでした。

試算

その後開業するための試算をしました。シンガポールで一番大変なのは固定費、特に「家賃」です。彼のカフェでなく軽食もその場で作りたいとのコンセプトを成就させるためには厨房も入れなければなりません。

またオペレーションを行う上で調理人+ホールスタッフの確保もしなくてはなりません。その方が思った以上に初期投資が掛かることがわかり、というより東南アジアでの飲食の起業を少々甘く見ていたこともあり、「そんなにするんですか」という絶望の最中日本帰国を致しました。地方の出身の方でしたので第二の人生を地元でのカフェ経営で過ごされた方が良いのではと思いました。

東南アジア諸国では、飲食業で成功している企業はたくさんありますが、資本力の無い個人事業主は相当な覚悟と準備で臨みませんと1年で撤退というケースも出てきます。

瞬間的な情熱的「進出コンセプト」は大切ですが、その後のオペレーションの「持続性」をいかに保つかがキー・サクセス・ファクター(成功要因)になってきます。また進出支援の会社に頼るのではなく自分の足でマーケット・リサーチを徹底すべきです。

Daily NNA 2016年9月1日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。