第56回 人事担当者のお悩み:その15 インドネシア国籍の人を雇いたいのですが・・・

先般、休暇を兼ねて日本に行っていました。大学時代の友人達と穂高連峰の奥穂高登山を2泊3日で敢行しました。

山頂近辺の山小屋には日本人だけでなく、韓国やフランスの方々もおり、日本の山々に魅せられた外国人観光客が増えてきたと実感しました。

麓のホテルにも中華系(おそらく台湾人)の宿泊客がいたり、上高地バス乗り場のお土産屋にはインドネシア人の団体客がお土産をバスの停車時間ギリギリまで購入したりしていて、日本の観光もテーマパーク、爆買からもっと「本当の日本」を楽しむようシフトチェンジしてきたように思えました。

さて、今回は対象的な2社の採用事情です。まず1社目はシンガポールに初めて赴任してきたある中小企業の採用です。

この赴任者は日本では直接的な部下を持ったことはなく、海外勤務も初めてでした。

本社からは1名現地スタッフを採用するように指示され、弊社の人材会社ライセンスを通して、1名女性を採用しました。

当初は問題無かったのですが、海外出張が多く明確な指示を出せなかったことと、入社前に話した事と違うことに関して積極的に取り組まないことなどが重なり労使間の関係が悪化。

その結果、労働契約を2週間ノーティスで解除することにしました。解除前はかなり悩んでいましたが、採用したけど「合わなかった」ケースは労使双方あることで、彼女にはよりよい職場を求めてもらうということで一応の納得性を持ってもらいました。

マレーシア

その代替人材は、今回はシンガポール人ではなく、マレーシア人男性を採用することに決めました。マレーシアもシンガポールから見てみれば「外国」で当然、労働許可証は必要となります。

但し、EP取得の基準は他の外国と比べてかなり低く、この代替者の場合、2,000ドル台後半でEPがおりました。そもそもシンガポールは、1965年8月9日以前はマレーシア連邦の一部であり、独立当時は資源も何もないシンガポールはマレーシアに依存をしていました。

その関係が影響しているのかどうか明確な「答え」は無いですが、マレーシア国籍とりわけ中華系に関してはEP取得の為の給与基準が特別扱いになっているのは事実です。

この代替者は以前シンガポールで勤務していたことと、イギリスの大学を出ていることから、シンガポールで勤務しても相応しい「隣人」のお墨付きをもらった形です。

もう1社目は、数名勤務の会計事務所で、オーストラリアの大学を卒業したインドネシア国籍の女性を採用したいとのことでした。スキル的にはジュニアですが、高い英語能力と大学で勉強したことが仕事ですぐに活かせそうなことと、また外見も容姿端麗で外向き対応にも相応しいとのことで内定しました。

ただ、給料に関しては上述マレーシア人と同様2,000ドル台後半で考えていましたが、SAT(セルフ・アセスメント・ツール)を使って調べましたが、3,000ドル台後半でないとビザが下りないことが分かりました。

Sパスの場合は2,500ドル以上であれば原則取得できますが、今度はシンガポール人(PR含む)雇用比率が足りなく、Sパスも断念せざるを得ませんでした。ではその下のワークパーミット(WP)はどうかといいますと、何故かインドネシア国籍は、おそらく流入を防ぐ意味で、WPの取得は、FDW(女性のメードさん)以外は取得できないことになっています。

WP取得国としては1番目として「北アジア諸国」があり、その国、地域は、香港、マカオ、韓国、台湾の4カ所です。

2番目は、「新規外国人労働力供給国」で、インド、スリランカ、タイ、バングラディッシュ、ミャンマー、フィリピンの6ヶ国です。あとは中国大陸の1カ所で合計11カ所となっています。マレーシアもインドネシアも同じ「隣国」ですが、歴史的背景や政治的状況等で労働許可に関しては「違い」が出ています。

Daily NNA 2016年9月22日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。