第64回:外国人労働者の「受入れ」か「獲得」か。<介護編>

私事で恐縮ですが、筆者の母が昨年末に心筋梗塞で倒れ、急遽入院をしました。年の瀬で直行の航空券は手に入らず、LCCを手配しバンコクのドンムアン空港を経由して成田に到着しました。幸い好天に恵まれ「寒さ」はあまり感じませんでした。全く予定はしていませんでしたが、年末年始の日本は数年ぶりでした。

入院先は東京都立川市の病院で年の瀬もあり、病院内はたくさんの人がいました。集中治療室には数名の看護師さんがほぼ走りながら仕事をしており、また担当医もほとんど時間が無くなかなか面談の時間も取れませんでした。幸い回復基調であり一命は取り留めましたが、後遺症が残るかもしれないとのことを言われました。筆者の母は83歳で歳の割には元気でしたので驚きましたが大病は突然やってくることを身にしみて感じた次第です。

さて、日本は急速に少子高齢化と人口減とくに勤労世代は数十万人の単位で減っていくことが現実化しています。地方都市が毎年一つ消滅するほどのインパクトがあり、またうちの母親を含みますが、老人人口の増加に伴い、医療費補助等の社会保障費はどんどん膨らんでいて財政を圧迫しています。

筆者の場合海外生活がほぼ20年で、親はいつも日本で元気に暮らしているということが自然になっていましたが、今となって急に<介護>という言葉が頭の中にチラつくようになりました。昨今、「介護離職」や「介護殺人」など「介護」に関わるニュースが増えてきました。アルツハイマーでボケになってしまった自分の母親の介護に疲れて殺してしまった息子さんのTVインタビューを聞きましたが、どうしようもなかったココロの葛藤を感じました。

数年前、タイのバンコクに住んでいる時に、日本人のリタイア組みをタイに「ロングステイ」をさせる会社が幾つかありました。日本語のできるタイ人スタッフが数名おり、余生を「微笑みの国」で過ごすプログラムで、人気はそれなりにありましたが、やはり最終的には日本の故郷に戻りたい要望が多かったのを覚えています。その際に日本語のできるタイ人を日本の介護現場で勤務させる計画もありましたが、当時(2000年台前半)は単純労働者の「受入れ」はNGとのことで、せっかくタイで日本人に接することに慣れたタイ人の能力・経験をムダにしてしまいました。

ようやく、日本の介護現場で外国人労働者の「受入れ」を促進する法案が成立されましたが、その「受入れ」という言葉もいつも思うことですが「上から目線」でもはや「獲得」をしていかなければ手遅れになるのではないかと危惧します。

タイ人は日本や日本の文化は大好きですが、それは「食べ物」や「観光」であって、日本の介護現場で日本語というマイナーランゲージの中で仕事をしたいと思うタイ人は果たして何人いるのか大きな疑問です。しかもベトナムやタイ政府が認めた介護福祉士の資格を持つ外国人にのみ在留資格を与えるというもので、本国でも十分活躍できる人を日本の介護現場に引きつけるのにはやはり給料も含む福利厚生の充実が必須です。

現在日本の介護現場では約40万人の介護人材が不足していると言われています。大量に在留資格を発行すれば中にはそのまま不法移民にもなりかねませんが、それ以上に悲鳴を上げている介護現場で働きたいと思う東南アジアの人達を「獲得」していく必要があると思います。既に優秀なフィリピン人は欧州や中東で活躍されており「売り切れ」ですから。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2017年1月19日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。