第65回:人事担当者のお悩み:その17 接待費はどこまで出せるか?

先週1月28日は旧正月でした。日本では1月1日を元旦としてお正月を祝いますが、中国、台湾、香港を含む東アジアの中華圏を中心に1月1日は普通の祝日的な感覚があります。一方、中華民族に取りまして旧正月いわゆる「春節」は一年で最も重要な祝日で、地方から都会に出稼ぎに行った人が故郷に戻ったり、親戚・家族が集まり子どもたちに紅包(アンパオ)というお年玉を上げたり、甘いものを食べたり、とにかく赤く祝います。

筆者もワイフの実家のスマトラにある地方都市に<帰省>をしました。毎晩家族との食事やワイワイと歓談し時を過ごします。旧正月中に仕事をすると、その年は苦労する等の言い伝えがあり、とにかく中華圏は街がシャッターで閉まります。シンガポールの場合は多民族国家ですので中国、台湾、香港ほどではないものの、見事にお店が閉まります。

シンガポールやマレーシアは公休日が2日でインドネシアは、かつては中国の文化、漢字すら認めませんでしたが、最近は旧正月1日だけを国公休日と指定しました。ベトナムは「テト」と呼び、インドネシアでは「イムレック」と現地語で呼びます。旧正月まえには、故郷にお土産を購入したり、大家族で食事をしたりしますので個人消費が大幅に伸びる時でもあります。その他、タイ、フィリピン、カンボジア、ミャンマー等の東南アジアでは中華系の国民は存在しますが、国の公休日にはなっていません。

さて、獅子舞(ライオンダンス)のにぎやかな音も消え旧正月も終わり、通常の経済活動に戻ってきました。今回のお悩みは「社員の接待費をどこまで出せるか」です。とある飲食コンサル業界の社員が、顧客の経営するレストランで顧客と食事をし、その金額を営業活動に伴う飲食代いわゆる接待費として会社に請求をしてきました。当該社員としては、自分の勤務時間外で「営業」の為に食事をしたのだから当然会社に対して請求権があると主張する一方、会社側としては、自分の生活の一部である「食事」を勤務後に取っているのだから、それは個人の一般消費であって会社が接待費を出すべきでないとの判断でした。

当該企業の責任者は40歳台後半のいわゆる<叩き上げ世代>で、「そんなのは当然自腹」という感覚です。社員は30代の社歴の浅い女性社員で、「会社とプライベートは別」とハッキリ区分けするタイプです。

筆者はその間に挟まれている中間管理職より相談を受けました。そもそも中小企業で、接待費関するルールも存在しませんので、当該社長の匙(さじ)加減で社内の物事が決まってしまう傾向があり、一度そのような労使間のちょっとした労働紛争になると、不毛な戦いに発展することもしばしばとあるとのことでした。

また、とある物流系企業では、会社での忘年会などの食事会には社員が一律で負担することになっており、ローカル社員から不評を買っています。現地の社員としては、会費を徴収されるのなら、NOといえる選択肢もほしいとのこと。この企業は日本的な経営をとっており、日本でも社員の温泉旅行を毎年していますが、社員から「参加費」を徴収するのは慣例になっています。また、社員が接待受けることも接待することも原則禁止にしているとのことです。理由は「社員が不正を働く温床になる」というものでした。

さて、間に挟まれている中間管理職としては、ワンマン社長に逆らうこともできず、また部下からの不満を蓄積すると辞められてしまうと困ることもあり得るため、結局はこの中間管理職が部下に「今度おごってやるからさぁ」と話し、なんとかその場を凌ぎました。

結局の所、決め事を用意していない為、このようなケースが起きていることを鑑みますと、ガチガチな接待費規定を制定する前に、ある程度の労使間での「取り決め」は必要です。
要するに時間外での「お付き合い」を「仕事の一部」と現地の社員は認識しますので、時間や費用の、「エクストラ」の扱いには注意が必要ということです。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2017年2月9日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。