第66回:本帰国命令が出てしまって・・・

先週の木曜日の2月16日、家族と外食中にとんでもないニュースが飛び込んできました。「金正男(キム・ジョンナム)氏マレーシアで暗殺される」。最初は偽ニュースかと思いましたが家に帰りニュースを見てみると「ほぼ」本当との報道でした。しかも暗殺方法が「毒針」というTVゲームでモンスターを倒すようなアイテムだったと当初報道されたことと、空港という公衆の面前で堂々行われたことが、驚きました。

後々の報道では、「毒」を使った実行犯は、インドネシア国籍とベトナム国籍の一般女性で、日本のドッキリカメラのような「バラエティー番組」の収録と持ちかけギャラを支払い実行させた「嘱託暗殺」ということで世界を特に東南アジア各国を震撼させました。

現在マレーシア政府と北朝鮮政府との間で「死体」の引き渡しをめぐり対立をしています。意外なのは、マレーシアもインドネシアもシンガポールも北朝鮮と国交があり、マレーシアでは北朝鮮国籍の人が労働者として働くことができます。今回の暗殺事件は東南アジアで起きた劇場型犯罪でありマレーシア警察は威信を掛けて捜査をしていくようです。中国の格言の一つに「親族を殺したものは最終的に親族に殺される」というものがありますが、果たして誰が命令を下したのでしょうか。

さて、今回のお悩みはインドネシアで中堅部品商社に努めている日本人駐在員の方の相談です。新年度(2017年4月)からの人事異動の「内示」が2月の上旬に発表され、日本への帰国人事が会社から言い渡されました。日系企業の「内示」とはこれ即ち「命令」「指示」であり、よほどのことが無い限り覆すことはできません。

当該相談者は40台後半で海外畑が長く、「今更日本に行っても・・・」という気持ちと、配偶者が外国籍の方であることから、海外残留を希望しています。また、教育水準の高いシンガポールでの仕事があるかどうかを相談されました。

この方の年収は1500万円を超えており、また住宅、税金、社用車は全て会社負担となっています。駐在員待遇としては「普通」なのかもしれませんが、現地採用となりますと、基本的には給与以外の付帯人件費は付きません。現地採用として今までの社内キャリアを捨ててまで本当に挑戦する覚悟があるのかどうかの「本気度」を問いかけ、また現在の報酬及びベネフィットと比べていきますと、段々と気持ちが引いていくのが普通です。

今の時期はこのような相談を他の方からも多く受けます。では、自営で何かを行うか?とい問いに対しては「何をしたら良いか分からない」「リスクは取りたくない」などの消極的な姿勢が強く、あくまでも、他の会社から与えられる条件が良ければ引き受けたいと思う方がほとんどです。その理由としては、今の待遇を下げてまで現地採用で挑戦できるかどうか双方を天秤に掛け、どちらを取るかの判断をしますが、結果としては待遇面の天秤が下に大きくブレます。

その中でも、現地採用を敢えて選ばれる方もおります。その方は長年海外で活躍されてきた方で、子供2名が既に独立された方です。子供養育費、教育費が既に掛からないことと、奥様も寒い日本の冬よりは東南アジアの気候に慣れていることということで、地元の企業にアドバイザーとして就職をされました。年収のピークに比べれば半減したようですが、仕事の量も半減し、今は趣味のスキューバダイビングを楽しむ生活をしています。

駐在員から現地採用にスイッチするのには相当な覚悟が必要で、その道を選んだ場合、後戻りできない「背水の陣を敷く」ことが肝要です。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2017年2月23日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。