第69回:人事担当者のお悩み:その19 前のボスが言ったから・・・

最近日本でもテレビニュースなどでもすっかりお馴染みになりました、THE(ザ・タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)が2017年世界大学ランキングを発表しました。

世界全体で見ますと、1位から20位はアメリカとイギリス(イングランド)がほとんどで、スイスの大学が9位に入っているだけで特に大きな変動はありませんでした。

一方、アジアのランキングは変動がありました。アジアのランキングはトルコと中東を含めた広域になっています。

トップ10を見てみますと、1位はシンガポール国立大学(NUS)、2位は北京大学で、筆者も短期留学経験がある大学でしたが、当時は社会主義のアフリカ諸国からの留学生がほとんどで国際色はあまりありませんでしたが急激にレベルが上ったのでしょう。シンガポールの南洋工科大学(NTU)は前年2位より4位に後退しました。

日本の大学最高峰である東京大学は前年7位から変わらずで、昨年11位であった京都大学は14位に後退していました。20位以内に中国6校、香港5校、韓国5校が入っており、日本の大学の後退が目立ちます。

東南アジアでは、マレーシア国立大学が59位、筆者が経営大学院を出ましたタイのマヒドン大学が97位とかろうじて2校が100位以内に入りました。

ノーベル賞受賞者を排出しているのに何故ランキングが低いのかのポイントは、国から大学に拠出する研究費が少ないことや留学生の少なさに象徴される国際性の低さが上げられます。1位のシンガポール国立大学は世界100カ国以上からの留学生迎えています。

さて今回のお悩みは、最近交替人事で新社長として赴任してきました管理職からの相談です。

日系企業の場合、新年度は4月から始まることが多く、2~3月は出向者の帰任や赴任が目立ちます。諸事情により海外に住んでいたい方に本帰国命令が出てしまい、現地での就職を試みるケースもこの時期毎年増えているのも特徴です。

さて、この新社長は海外での赴任経験は無く、また英語もあまりできませんが、前任者の負の遺産をそのまま引き継いで社内改革を任されています。赴任前からかなり気合が入っており、「改革者」として意気揚々と赴任されました。

一方、社員としては優しい前社長の「ぬるま湯」体質にどっぷりつかり改革など甚だ迷惑と感じる社員も多いようです。東南アジアでは頻繁にみる光景ですが「社長が交代する際に自分も転職」という行動を取ります。それは「ぬるま湯」が「熱いお湯」に変わると感じるからでしょう。

当該企業も総務・人事担当者が新社長就任前に退職をしました。色々と調べて行きますと、ある一定の社員に特別な手当を支払っていることや、その総務・人事担当者が前任者より許可を取って加入したメンバーシップの請求が発生したりして叩いてみるとたくさんの「ほこり」がみるみる出てきました。他のスタッフに問い合わせても「前のボスがOKって言ったからいいんじゃない」的な発言があり、驚いたそうです。

前任者は社内でも「エリート」と呼ばれる人で、本社も当たり障りの無いような気遣いをしてしました。その結果、前任者はシンガポール駐在中に本人が傷つかないよう、また現地のスタッフにも嫌われないようにマネージメントをしていたのでしょう。

他の日系メーカーのケースでは、社内規定とは別に「ボーナス規定」が別にありました。しかも新入社員には適用されないというダブルスタンダードが発生していることに新任者が気づきました。

現地の人事担当マネージャーに聞いたところ、「前の社長がOKでしたので」と言い張りました。付箋程度のメモで伝わった「既成事実」であり、前任社長は退社されたので問い合わせることもできなくなっていました。適用者が社内のコア・メンバーであることから既得権をカットすることは難しく悩んでいます。

現地スタッフと仲良くなることは良いことですが、「言いなり」になりますと、後任者が後々苦労します。「特例」は問題を起こしますので、設定には注意が必要です。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2017年4月13日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。