第70回:人事担当者のお悩み:その20 ランチタイムは一人にして下さい。

現在、弊社の入っているオフィスが手狭になってきたこともあり、オフィス移転プロジェクトを立上げ、不動産エージェントを通して幾つかの物件を見ています。10年前に人材紹介会社をシンガポールで立ち上げた時の賃料は、S$4,500でした。シンガポールの場合はSQF(スクエアー・フィート)という単位で1SQFあたりいくらか?で相場観を探ります。

シンガポールにおける経営上の課題として「オフィスレンタルの高さ」が賃金上昇と共に大きな懸念材料となっています。しかしながら新しいオフィスが次々と立ち上がり供給が増えてきたことから、古めのところはオフィスレンタルが下降気味です。それでも1SQFあたりS$6を切るところは、中心地や駅から遠く古めのビルしかなく、相場が下降気味とはいうものの、劇的には下がっていないのが現状です。

他のアセアン諸国を見てみますと、タイのバンコクは中心地でもシンガポールの半分から三分の一が相場です。筆者がタイの人材紹介会社に在籍していた際は商業地区の真ん中で広いところを借りていましたが当時のレートで20万円を切っていたのを思い出します。

シンガポールの場合はまさに需給バランスに大きく影響され、3年前であれば「嫌なら契約しなくていいよ」といった高圧的な態度の貸主が多かったのですが、今では借主が若干強く出られる状態です。

さて、今回のお悩みは小規模オフィスで数名の従業員でオペレーションをしているIT企業の責任者からの相談です。この方は以前も他の東南アジアでの勤務を数年行っており、昨年の春先にシンガポールに赴任してきました。お会いしてお話をさせて頂くと、非常に明るくいつもニコニコ笑顔を絶やさない感じの良い方という印象を受けました。

ただ、何故かスタッフの離職率が高く、いつも採用に追われているとのことで、なぜだか理由が分からないとのことで相談を受けました。

スタッフが離職する理由としては、自分が保持しているスキル、経験、努力を仕事と職場につぎ込む「インプット」とし、その結果得る報酬や賞賛や働きやすさ、いわゆるやり甲斐を「アウトプット」としますと、「インプット」>「アウトプット」となりますと、転職の機運が高まります。

少々語弊があるかもしれませんが、「笛吹けども踊らず」で明るい職場を目指しても、その雰囲気に馴染めないスタッフが出てきていたようです。

その中で、この責任者が一番衝撃を受けたのが、あるスタッフの退職理由が「ランチタイムは一人にして下さい」と言われたものでした。聞く所によりますと、ほぼ毎日スタッフ全員でランチに行くことがこの会社の慣例になっており、当然のごとく、責任者が全体を仕切っています。他の駐在員も半分は「上司にお付き合い」的な気持ちがあるのかもしれませんが、現地スタッフも「一緒に行くのが普通」でした。また毎回ではないものの、責任者のポケットマネー、あるいはミーティングということで会社の経費でご馳走していました。

一方、スタッフからしてみれば、1時間のランチ時間の間に好きなものを食べたいでしょうし、場合によっては買い物や、ちょっとしたうたた寝を含んだ休憩をしたかったのかもしれません。もちろん、断れば済むことですが、断れない雰囲気もあり半ば強制的に参加していた感は否めません。

経営側は良かれとおもっていても、スタッフ側は苦痛、場合によっては迷惑と感じることもあります。特にタイなどの集団で行動するのが好きな国民性の東南アジアの国と、どちらかと言うと個人主義的なシンガポールでは温度差があることも忘れてはなりません。東南アジア諸国ではこのように国民性の違いがあることも理解する必要があります。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2017年4月27日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。