第84回:人事担当者のお悩み:その27 もうEPホルダーは雇えない

先週の木曜日11月16日にシンガポール西部のJOO KOON駅でMRT同士が衝突しました。

幸い大事故には至りませんでしたが、数十名が病院に運ばれました。

事故の原因は新しい信号システムと古い信号システムの2つのシステムがうまく作動しなかったと報道されています。

安全面を確認する為、JOO KOON駅から新設されたばかりのTUAS LINK駅までの区間はしばらく運休停止の措置が取られています。

シンガポールではインフラ整備を急速に行っていますが、MRTに関してはシステムのエラー頻発でシンガポール人も諦めモードです。

筆者が最近のMRTで感じることは旧車両のエアコンの効かなさです。社内に入った瞬間に汗が吹き出るサウナ状態の車両もあり次の駅で降りますが、シンガポールの方々は平気な顔をしています。これも諦めの境地なのでしょうか?

さて、先号でもお伝えしておりますが、シンガポール政府特に人材開発省はこの5年間で初めてEPの削減に「成功」しました。

今年の6月末時点と昨年の12月末時点と比べて2400件、率にしてマイナス0.7%を「達成」し、計画を推進してきた担当者の「ガッツポーズ」が想像できます。

最近の日系企業の採用時のお悩みとしてはEPホルダー(特に日本人)を雇えないとの声があります。

職種上、日本語が必要なポジションでも、まずは「日本語のできるシンガポール人」を探すよう依頼されます。

依頼内容に基づきサーチは致しますが、そもそも採用給与が2,500ドル~3,000ドルの要望ですが、給与レンジが低すぎで、そもそも応募すら来ません。

NUS(シンガポール国立大学)の日本語を勉強している生徒達に「日系企業で働きたいと思いますか?」のアンケートを取りますと半数以上が「NO」と言っています。

日本の文化(アニメや日本食等)は好きですが、日本企業で働いていたもしくは現在働いている卒業生から、日系企業で働く上でのデメリット・ポイントが伝わっている形です。

デメリット・ポイントとしては、1)成長機会が少ない、2)給料が安い、3)サービス残業が多い、4)男尊女卑の傾向がある、5)日本人以外は上に上がれない、等が掲げられています。

とある日系メーカーにHRマネージャーを採用してもらいましたが、特にポジションでは日本語は必要なかったですが、「たまたま」日本語がかなりできる方で、採用された企業からは「なんだ日本語も出来たんですね」と感謝されました。

ただ、当該採用社員としては、日本語はあくまでも個人の趣味で取得したもので、日本語を必要としないポジションで採用されたのですから、仕事では使いたくないと言っていました。

EPホルダーを最初から敬遠する理由としては、日系企業が気にする「給与のバランス」が主な原因です。

日本の国立大学卒、社歴2年24,5歳でも今は4000ドル台でないとEPがおりません。

当然現存のシンガポール人スタッフに支給している能力に見合った給与体系から外れてしまいます。

またそこまでして日本人を採用する必要があるのかどうかの疑問点にぶつかります。

職務上日本語は必要、されど日本語を話す人もEPホルダーも採用できないとのジレンマに陥っており、また「ウォッチリスト」政策により、EPホルダー採用に「ビビっている」感じを受けます。

結局はその穴を埋めるのはLOCを取得したDPホルダーの方を雇うのですが、お金の為だけではないので、仕事内容が合っていないと感じたらすぐに退社というケースも出てきています。

MRTも開通30年で節目の年ですが、労働環境も変化を余儀なくされています。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2017年11月23日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。