第85回:配偶者ビザ(DP)発給条件厳格化で考えること(3)

またまたMRTネタですが、先月末「雷がMRTに落ちた」とのニュース速報が入りました。運転手は雷に打たれ病院に運ばれたとか、「今度は雷にやられたか」と先般のJOO KOON駅での衝突事故に続き、MTRは大丈夫なのかと本当に心配になりました。

実際のところMRTに直接落ちたのではなく、近くの電気盤だったとのことでしたが、最近のMRTは「何かが起こる」という感じで目が離せません。

今日も動いてくれてありがとうと感謝の気持ちで乗るしかありません。

ただ、日本でもそうですが30年近く経ったインフラの老朽化は進んでおり、いかに計画的に改修していくことが重要になってきています。

さて、この人財羅針盤の中で、何度も述べておりますが、2018年1月1日より始まるDP(家族ビザ)発給基準が上がることにより、現地採用社員と採用している日系企業の間に動揺が広がっています。

12月4日にMOMよりリマインドが来ました。本気です。

そもそも、このニュースを知らない方々も結構多く、私が訪問時にこの改定について説明しますと、日系企業の担当者は驚きます。

駐在員にとりましては会社が負担する家賃もEP取得のトータルに合算されますので6,000ドルを切ることはまず無いですが、全て「込み」で働いている現地採用社員は、時々EPを取得する為に家賃補助が出ているケースもありますが、よほどのポジションでない限り一般事務職で6,000ドル(日本では50万円近い金額)を出す企業はほとんどないでしょう。

筆者の知り合いで日本人の現地採用同士の夫婦がおります。

双方とも日系企業で長年活躍されており、私も個人的には仕事の関係で良く話すことがあり、このままずっとシンガポールにいるかと思っておりました。

12月に入り、「来年1月に日本に戻ります。」と連絡が入りましたので理由を聞きますと、「EP取得の為に一喜一憂するのに疲れた」と本音が漏れました。

もちろん、日本での正社員での採用が決まったということもありますが、このように日系企業で中堅として活躍されて来られた方々が夫婦共々EP(DP)規制の為に、シンガポールを去るケースが増えてきています。

日系企業にとりましても、貴重な中堅社員2名を失うことにより、経済的な損失を被りますし、では代わりにシンガポール人でこの2名が担ってきた職務を遂行できる人材がいるかどうかですが、皆無と言っても過言でないでしょう。

日本語のできるシンガポール人をと良く頼まれますが、「日本語ができる=日本的な仕事ができる」とは限りません。

またこの2名がシンガポールに落とす金額(衣食住+その他エンターテインメント)の損失もそれほど大きな金額ではないかもしれませんが、影響が出てくるのは間違いないと思います。例えば、日本人顧客をメインにしているサービス業等です。その業種の撤退も増えてくることが考えられます。

もちろん、このケースは日本人だけとは限りません。他国の現地採用の人たちも家族がバラバラになってまでシンガポールに留まって働くかどうかと言えば、基本的には「単身赴任」はありえませんので、他国の方も去っていくことが予測されます。

自由経済、開放的な移民政策、労働力の流動性で常に世界経済自由度ランキングでも上位を占めてきましたシンガポールですが、その魅力は、現地採用で頑張ってきた人たちに大きな失望となって影を落とし始めています。

ただ、そこまでして何とかシンガポール人雇用を優先させなければならないシンガポール政府の強い意志を感じます。

企業は既存の体制を見直す機会に直面しているのは間違いありません。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2017年12月7日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。