第89回:東南アジア進出前の「じっくりマーケット」のすすめ その2

あっという間に1月が終わり、シンガポールを始めとする中華圏では「春節」いわゆるチャイニーズ・ニューイヤーの季節が始まりました。

中国では既に民族の移動が始まっており交通機関の混雑が始まっています。

シンガポールでもスーパーは「赤」と「犬」(今年の干支)の店舗デザインで統一されており、この時期になると購買意欲が高まるのか、ゴンシ~(恭喜)の調べにのり、中華系の人たちは盛り上がります。

さて、前号に続き「じっくりマーケット」のすすめを述べてまいります。

最近では、規模はそれほど大きくないものの、シンガポールを始めとする東南アジア市場が着目されています。

日本の本屋でも「アジア最後のフロンティア、ミャンマーの投資は今!」や「人口3億時代のインドネシア・マーケットを攻めろ」など煽るようなキャッチコピーが目立ちます。

最近弊社の顧客で「東南アジアでスポーツビジネスを展開したい」お客様と商談を致しました。

若い方で礼儀正しい好青年のイメージです。

事業計画の骨子を見ますと、まずはシンガポールに会社を設立し、投資家より増資を募り、商品・サービス開発を行い、年内には事業開始を行うというものです。

弁護士を付けておりますので、事業を展開する前にリーガル・チェックは行うとのことです。

事業のアイデアは情熱を持って現実的に始めるのが理想ですので、「こうしたい」を実現するために「事業計画」を作成する必要があります。

シンガポールは会社設立が「簡単」なのは確かですが、単に「節税」目的や「会社だけ作っておこう」等の軽い気持ちで設立を目指される方がおります。

シンガポール政府としては、会社設立は認めるものの、そこで何人の雇用が生まれるかを注視しています。

資本金が1ドルで設立できるのは確かですが、1ドルの資本金でシンガポール雇用を生み出されるのか?というポイントも労働許可証発行に影響されます。

日本の有名大学卒業でCEOの肩書でEPを申請しましたが却下されました。

現在EPを再申請していますが、ポイントは「事業計画」の中に何人のシンガポール人雇用を計画するかです。

現在シンガポール政府は、雇用に関してはシンガポーリアン・コア政策を頑なに進めており、いくらCEOだからといっても、雇用が見込まれないような、「ペーパーカンパニー」にはEPも発給しませんし、銀行口座開設も難しくなります。

あくまでも雇用の中心は「シンガポール人」ですので、当面は事業計画の中に簡単な組織図を作成し、外国人雇用1名につき少なくとも2名のシンガポール人雇用を計画し、組織内のシンガポール人雇用比率を3分の2に維持することを目指し、実際に実行する必要があります。

事業は、好き×得意×市場で無限大の可能性を引き出していきますが、実際には計画が行き詰まり、事業撤退しているケースも見受けられます。

「どうしてこの事業を東南アジアで始めるのか?」、「ビジネスモデル(儲けの仕組み)は機能するのか」、事業を成功させる為の「ミッション・ステートメント」は示せているのか?これに「市場」が合っているのかを照らし合わせる必要があります。

セントサ島やマリーナベイサンズ(ホテル)やオーチャード等観光スポットに行くのもいいですが、事業を計画したら、まずは2週間か1ヶ月間東南アジアに滞在し、実際に自分の足で歩き、目で見て感じ、考え、このまま進めていくのかどうかの「判断」をするためにも「じっくりマーケット」を実施することをおすすめします。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2018年2月8日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。