第245回:最新人口統計を踏まえた採用戦略

シンガポール政府が発表した2025年6月末時点の人口統計によると、同国の総人口は前年比1.2%増の611万人となり、過去最高を更新しました。ただし、政府が2023年1月に発表した「2030年までに総人口650万~690万人に引き上げる」という「人口白書」の目標値には依然届いていません。現在の増加ペースを鑑みると今後5年間で達成するのは難しい可能性があります。

611万人の内訳をみると、国民が366万人で昨年の364万人から微増し、総人口の約6割を占めます。外国人は約4割と、他国と比較してもあまり見られない人口構成となっています。


外国人のうち、永住権(PR)保持者は約54万人で昨年からほぼ横ばいとなり、総人口に占める割合は約9%でした。PR保持者は高齢化が進んでおり、技能労働者向け就労ビザ(EP)保有者の取得規制が厳しくなる中、日本人のPR保持者が60歳を過ぎても日系企業で採用され活躍するケースが多く見られます。

PR保持者以外の外国人居住者は前年比2.7%増の191万人でした。その内訳は人材開発省のカテゴリー別統計によると、EP保有者が24年12月末比で0.4%減の20万1,200人、中技能の熟練労働者向け就労ビザ(Sパス)が0.3%減の17万7,600人、単純労働者向け就労ビザ(ワークパーミット=WP)保有者(メイドを除く)が0.8%増の46万300人となりました。

新型コロナウイルス禍後の経済回復に伴い、EP・Sパス保有者が増加に転じましたが、23年9月にEP申請時のポイント制度「補完性評価フレームワーク(コンパス=COMPASS)」が導入され、EP取得条件が厳格化したこともあり、25年6月末時点のEP保有者は24年12月時点と比べて900人減少しています。こうした傾向は今後も続くことが予想されます。

また、コンパスを通じてEP更新を申請する際、人材開発省から直近3カ月の銀行口座の明細やオフィスの賃貸契約書などの提出を求められるケースが増加しています。その理由としては、コンパス上で「提示」した給与額と、実際の「支給」された金額の乖離(かいり)があるかを調べたり、企業が実際にシンガポールで事業を行っているかどうかチェックしたりしているものと思われます。これらの点がクリアにならないと更新が却下される事例も報告されています。

EP・Sパス保有者は減少している一方で、WP保有者はわずかながら増加しています。国内で公営住宅(HDBフラット)の「スクラップ・アンド・ビルド」が進み、建設需要がWP保有者の人材需要につながっていることが背景にあるとみられます。最近は特にバングラデシュ人のWP保有者が目立ちます。

シンガポールでは少子高齢化が急速に進んでおり、国民に占める65歳以上の割合は25年に20.7%に達しました。この割合は今後も拡大していくものと見込まれます。再雇用制度はあるものの、高齢者の労働生産性は落ちる傾向があり、若手の採用を試みる企業は少なくありません。

ただ、特に人手不足が深刻な飲食業では外国人雇用に規制があるため、高齢者を積極的に採用し、皿片付けなど比較的単純な作業を中心に担ってもらうことで労働配分がうまくいくケースも見られます。

少子高齢化が避けられない中、企業は65歳以上の高齢者が担える仕事を割り振れるような採用戦略が求められます。また日系企業でも、PR保持者を効果的に活用し、業務を推進できる体制を整える必要があります。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2025年11月20日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。