第247回:組織行動学による最適な人員配置
遅ればせながら本年も「コラム」をどうぞよろしくお願いいたします。
日系企業の多くが12月末までにAWS(年間賃金補助)や業績連動賞与を支給されたことと思います。支給額が多いか少ないかは各企業の業績にもよるものの、「懐が温かくなった」ことで次の転職先を探す従業員も一定数出てきます。実際、賞与支給前、特に例年11月から12月にかけては人材の流動性が低く、募集広告を出しても候補者がなかなか集まらないという声を人事担当者からよく耳にします。
転職を防ぐために、は賃金やベネフィット(福利厚生)も大切ですが、それと同時に組織内の人間関係を良好に保つことも重要です。人間関係の悪化は退職の一つの理由として非常に多く聞かれます。
特にシンガポールでは少子化の影響により兄弟姉妹が少ない、あるいはいないことが多く、兄弟げんかをする機会も少ないといわれます。一人っ子の場合、両親が共働きであれば祖父母に甘やかされて育つケースもあり、人間関係のストレス耐性が弱い傾向にあります。その結果、上司から仕事上のミスで注意されたり、さらに他の従業員の前で叱責(しっせき)されたりすると、精神的に大きなダメージを受け、退職につながってしまうこともあります。特に他の従業員の前で指摘されると、ミスを犯したことよりも「恥をかかされた」ことを重く受け止めてしまいます。
欧米では「組織行動学」(Organizational Behavior)という学問分野があります。これは組織内で働く従業員の行動や心理を体系的に研究し、生産性向上や組織力強化に生かそうという学問です。日系企業は「まずはやってみて」「言わなくても分かるだろう」といった感じで、生産性向上よりも仕事の量をこなすことを重視される傾向があります。
その結果従業員にとっては逆にストレスとなり、質問しづらい雰囲気が生まれたり、無意味な残業を強いられたりするなど、組織にとってマイナスの効果を生んでしまいます。ストレス耐性が低い分退職につながりやすく、最終的には会社が代替採用のため採用コストや時間を負担しなければならなくなります。
こうした課題への一つのアプロ―チとして、組織行動学に基づき、従業員の組織内の役割をチェックする簡単な方法があります。その代表例がスイスの心理学者カール・ユングの理論を基に、イザベル・マイヤーズ氏、キャサリン・ブリッグス氏という米国の母娘が開発した性格検査「MBTI」があります。近年では、採用時に性格タイプを知る判断材料としてMBTIを活用する企業が増えています。MBTIでは、「エネルギー・興味の方向性(E:外向、I:内向)」「 情報の捉え方(S:感覚、N:直観)」「意思決定の仕方(T:思考、F:感情)」「外界への接し方(J:判断、P:知覚)」という4つの指標から16種類の性格のタイプ(傾向)を分類します。

ちなみに筆者は16種類の中で「ESTP(注・各指標のアルファベットの頭文字の組み合わせ)」というタイプに該当します。「究極の現実主義者」とされ、過去や未来よりも「現在」に集中するとされており、個人的にもこの分析に納得しています。感情がないわけではありませんが「T(思考)」が強いため、従業員の中に「F(感情)」が強い人がいるとぶつかることもあります。
一方でENFPはセールスに向いている性格とされ、「F」が強い人は渉外業務と相性が良いといわれます。こうした「違い」があるからこそ相互補完が生まれ、互いに刺激し合うことで会社の目標である「利益の構築」にもつながります。
さらに自分の性格を論理的に知ることで、相手の特性を尊重することもできます。「己を知り敵を知れば百戦危うからず」という孫子の言葉があるように、組織を預かる人こそまずは「己」を知り、その上で従業員のMBTIチェックを参考にしてみるとよいでしょう。
従業員は決して「敵」ではありませんが、この人は内向的なので経理向き、こちらの人は外交的、感情的かつ知覚的なのでセールス向きなどを把握し、それぞれのパーソナルタイプを考慮しながら「適『財』」「適『職』」を見極めることが重要です。
互いの違いを尊重し、健全な組織運営を実現できれば、「ボーナスをもらってすぐ退職」という従業員の選択も、自然と減っていくと信じます。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2026年1月22日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者

- プログレスアジア 代表取締役
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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