第154回:シンガポールにおける最新人口統計について
世界的に新型コロナウイルスの流行が続いていますが、ヨーロッパでは感染の第2波が発生し、国によっては、1日当たり1万人以上の新規感染者が出ています。
一方、シンガポールでは、市中感染、問題になっていたドミトリーの感染もほぼゼロで輸入例(兆候例含む)を除いては、ほぼ制圧できている状態が続いています。
マスク文化も市民の間では完全に根付き、他の風邪の感染症も防ぐ効果があり、日本人学校の先生のコメントによれば、皆気をつけてマスクをしている為か、児童の風邪による欠席が大分減ったとのことです。
MRTの中でも以前は咳をしている人が多かったような気がしますが、今はほとんど見掛けなくなりました。
マスクのおかげで他の病気にもかかりにくくなっているのではないでしょうか?
さて、シンガポール統計局が9月末に人口統計を発表しました。6月末時点での総人口は約569万人と、前年と比べマイナス0.3%となりました。
2004年以来、減ることはなく、微増してきましたので驚きました。
シンガポール国民と永住権保持者を足した数=いわゆる「レジデンス」人口は404万人と前年比0.4%と微増しています。
減少の背景としては、紛れもなくコロナの影響による外国人労働者の減少です。
外国人居住者は、前年比マイナス2.1%と激減しており、恐らくそろそろ200万人を超える勢いでしたが、約164万人となり、総人口の30%から28%になりました。
コロナ禍により、3月頃から飲食や小売で働く外国人労働者を雇用できなくなり、解雇件数が増えたことが大きな原因と考えられます。
弊社の顧客は、お店自体を閉店し外国人労働者全員を「整理解雇」しました。
また、ある小売店は、一旦ワークパーミット保持者マレーシア人労働者を「一時帰休」という形でマレーシアに帰させました。
その後業績悪化により、お店を閉めることになり、解雇せざるをえなくなりました。
本来ならばシンガポールでWPのキャンセルをしなくてはなりませんが、仕方なく帰省先で遠隔キャンセルを強いられ職を失いました。
一方でマレーシア人スタッフが自分の意思で一時的にマレーシア(特にジョホールバル)に帰ったものの、シンガポール以上に雇用情勢が悪化しており、雇用関係が続いているマレーシア人スタッフは再度シンガポールに戻り復職している例があります。
マレーシア人は陰性証明があれば7日間の隔離期間のみで宿泊先も自分で選べることから、コスト的には助かっています。
自分で帰省し復職を希望している場合は、雇用主負担ではなく、社員の合意の元、社員負担となります。
シンガポールでは全国民に占める65歳以上のシニア人口は約17%となり、また出生率も1.14と低水準であることから、労働人口(15歳以上64歳以下)も減少してくことが予測されています。
また婚姻率が約6%減り、離婚率は約4%増えています。
つまり適切な労働人口を維持するには外国人労働者を受け入れることが必要なのは明らかです。
それにもかかわらず、極端な外国人労働者のビザ規制を次々と打ち出してきており、何とかシンガポール人雇用を優先させて行こうとする意思は感じられますが、このままですと、シンガポール人に人気のないサービス産業は雇用が維持できなくなり、まさに撤退ということにもなりかねません。
昨年進出してきた、ある飲食のチェーン店も1年ちょっとで撤退することを決めました。
日本の本社も業績悪化で海外支店への資金援助もできなくなっているためです。
客の減少加え良質な労働力が得られないのが原因です。
既存の産業構造もそうは簡単には変えられない状況下、どのように労働力と雇用を維持してくかが大きな課題となりそうです。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2020年10月22日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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