第18回 ASEAN進出起業のジレンマ:その7 就業規則の重要性(4)・・・
先般マリナ・ベイ・サンズで日本の新幹線イベントが開かれました。
最近は日本でも「テツ」呼ばれる鉄道マニアが世間を騒がしているようで、会場にも「ママ鉄で有名なタレントさんも来ており会場は盛り上がっていました。
シンガポールから日本に旅行した友人達は新幹線の素晴らしさを実感しており乗車中の音が静かなことに驚いています。
3月には北陸新幹線が開通し「新幹線」は益々世界のSHIN-KAN-SENとしても有名になっていくと思いました。
シンガポールでもマレーシアの首都クアラルンプールと新幹線でつなぐ計画があります
。最近では中国の高速鉄道も世界で売り込みを掛けており、技術的な面とコスト面でますます「我田引テツ」が世界規模で競争されると思います。日本が得意とする沿線大型ショッピングセンターの開発とともに売り込みが成功すればビッグビジネスになるでしょう。
さて今回の例は「交通費」です。
ある日系企業で働く現地採用の日本人女性から交通費について少々揉めたとのこと。この方のポジションは管理職で現地のオペレーション全般を任されていますが、会社の経理マターは全て日本の本社がすることになっています。彼女の雇用契約書を見てみますとかなり「薄い」印象で細則はほとんど定めていません。
まして就業規則のようなものは存在せず、日本の本社の社長さんの意向としては、管理職は全て「込み込み」のパッケージのようなものなので細則は決めていないとのことでした。
ある日、彼女が営業先に行った際にタクシーが捕まらず公共交通機関を使い、その分を経費で請求した所、「レシートがない」とのことで経費が却下されました。
これを不服とした彼女は会社の経理、社長さんと延々と国際電話を使い交渉をしましたが結果従うしかないとのことでした。
契約書を見ますと交通費の概念が曖昧で、「通勤費」は給料込のニュアンスで、営業で使った「交通費」は特に書いていませんでした。
日本の場合は定期とタクシー代のみ請求可能です。企業側は「高い給料払っているんだから、そんな細かい公共交通機関の請求なんかするなよ」というのが本音だと思いますが、従業員サイドとしては「仕事で使った分」の請求権を求めたケースです。
細かいことですが、細則を決めていない故に労使双方の関係がギクシャクし、従業員側は「こんな会社」と思い、会社側も「管理職としては相応しくない⇒解雇も視野に入れた代替者選考開始」となっています。「通勤費」と仕事で使う「交通費」ははっきりと決めるべきです。
また社用車を持ち込みする社員に「車両手当」として支給している会社の場合、現在はマイル(移動した分)を決められた指数を掛けて支給をしていますが、どうみても「私用」で使っているとのことで月額固定制に変えることを打診したころ猛反発をくらってしまったとのこと。
社員としては正しく使っているはずですし、既得権がマイナスになることは簡単には受け入れることはできず、現在でももめています。
この会社は長年いらっしゃったMDの方が日本に帰国になり、新社長が着任し問題点を洗い出していますが、会社の規定はもはやほとんど単なる「紙」になっており運営面では全く使われておらず、前の社長と結託して決めた従業員にとって心地よく都合の良い事項が会社のルールになっており、新社長と経理と人事を兼任される日本からの若手駐在員の悩みの種になりつつあります。
3月より弊社の人事コンサルを踏まえ確固とした社内規程を作り上げ運用していく予定です。細かいことでも「放置」をすると後々大きな問題に発展する可能性も高い為、早期発見、対処が大切です。
Daily NNA 2015年2月5日号より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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