第21回 シンガポールの大学生意識調査
2015年3月23日午前3時18分、建国の父と呼ばれるシンガポール初代首相リー・クワンユーがお亡くなりになりました。
シンガポールは今年建国50周年の節目の年で、リー元首相が肺炎を患ってから国民からは回復の声も多かったですが永遠の眠りにつきました。
筆者は1987年に初めてシンガポールに来ました。国の発展、多民族国家の魅力に惹かれ1989年にシンガポールに留学をしました。
その当時は建国25周年の節目の年でOne Nation, One People, One Singaporeキャンペーンが主題歌と共に流れており、今でも脳裏に焼き付いています。
その年は中国で天安門事件があり、シンガポール人も香港人と同様に自分の住んでいる地域に不安を持ち、カナダやオーストラリアに移民する国民が増え次々と国を出て行く状況が続きました。
ブレイン流出に危機感を抱いたリー首相がテレビで国の発展を支えるために出ていかないようにと涙ながらに演説をしました。外国人留学生である私も感情のこもった熱弁には目を奪われました。
それだけ強い信念とリーダーシップで国を繁栄させてきたことにはシンガポールに長くすむ永住者としては心より敬意を払います。イスタナ(大統領官邸)に行き献花と共に日本語で哀悼のメッセージを書いてきました。
国葬は3月29日を予定しており各国から首脳が弔問に訪れる予定です。日本でも朝のトップニュースで報道されるなど世界とりわけアジアにおいては重要な人物であったことを再認識しました。
さて、筆者は来月4月3日に東京でNNAさんと合同で「アセアンで勝つ人事」というテーマで講演を行います。
私のパートは人事面で、シンガポールや他の東南アジアに住む学生や既に仕事をしている方々の意識調査をしてきました。
当地シンガポールでは、老舗の国立大学が3校あります。NUS(シンガポール国立大学)、NTU(南洋工科大学)、SMU(シンガポールマネージメント大学)でそれぞれ、総合大学、エンジニア系大学、経営大学と一応住み分けはされています。日本と大きな違いは卒業者の学位にランキングがあることです。
6段階あり、一番上は1st honourで最高学位者で全体の5%程、一番下は単純にPass。日本人の採用担当者はあまり気に留めませんが、英系のシステムの大学を出た場合、必す履歴書の中に入れています。
インタビューをすると、彼らが最初に目指す就職先は、政府系投資会社、各省庁、軍、警察関係です。その理由は、給与が高いことに加え社会的地位が高く、賃金に見合ったキャリアパスと能力次第で出世が早い為です。
リー元首相の一つの大きな功績として、汚職のないクリーンな政府を作ったことと言われていますが、国家のエリートに高い給料と地位を与えることによってブレインを集積したことです。
次に目指すのは、外資系の金融機関やBIG4と言われている会計監査事務所です。基本的にはエリート思想を持つ場合、メンツが高く、また待遇面良い職場環境を選びます。
この「外資系」金融機関には「日系」金融機関は入っていません。何故なら、日系企業は賃金もテーブルがありほぼ横ならびで意思決定も遅く、すぐに結果を求める民族性には合致していないからだということをとある学生は指摘していました。
コツコツやっていけばいずれは「外資系」企業を抜くケースもたくさんありますが即効性を求める向上心の高い学生を採用するには、最初から高い待遇、ダメなら解雇のような短期決戦型の採用を心掛ける必要があります。
政府系や外資系金融機関、会計監査事務所に行けない(行かない)人たちが地場や一般の外国企業を目指します。日系企業に入る方々の傾向としては、日本文化に興味のある方、日本の技術力に関心を持っている方が多いです。
日系企業に入り活躍する国民性を見てみますと、日本語を勉強した中国人、中華系マレーシア人、ベトナム人が多いです。劇的なスピードによる過度な競争を避けるどちらかと言うと穏健的な方が多いのも特徴です。
Daily NNA 2015年3月26日号より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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