第233回:最新の人口統計からの人事戦略

シンガポール政府が発表した2024年6月末時点の人口統計では、総人口が604万人となりました。13 年1月に発表した「人口白書」で、23年までに人口を650万~690 万人にするという目標には到達できませんでしたが、初めて600万人を上回りました。

604万人の内訳で特筆すべき点が2つあります。1点目は永住権(PR)保持者を含む外国人の構成比がほぼ4割(39.8%)となったということです。

一方、国民の割合は60.2%で昨年同月末時点から0.8ポイントとわずかに減りました。今後も外国人比率が高まることが予想できます。外国人の中で永住権保持者は54万人(全体の約9%)います。国籍の内訳は発表されていませんが、他の外国人と国民の間に位置しているような形です。

日系企業が日本人を採用する場合、新規で高技能労働者向け就労ビザ(EP)保有者を雇用するには年々ハードルが高くなってきている現状があります。ほぼ毎年申請基準が見直しされる中、給与や学歴、国民の雇用比率といった条件をクリアしなければなりません。

現に24年6月のEP保有者は前年同月比で3,000人減少しています。EPの代替として位置付けられている中技能の熟練労働者向け就労ビザ(Sパス)保有者も同時期に2,100人減少となりました。新型コロナウイルス禍の直後はEP、Sパスともに増加しましたが、24年は減少に転じました。

こうした状況下でEP、Sパスの雇用規制に制限されない永住権保持者は日系企業で重宝される傾向があります。全体的に永住権保持者の年齢層は高齢化しているともいわれますが、給与水準は現地スタッフと同水準で雇用できる利点があります。

ただ日本の社会保障制度に相当する中央積立基金(CPF)の会社負担分について、55歳以下であれば総支給額の17%を人件費の一部として拠出しなければならないため、雇用主はその点を念頭に置く必要があります。

人口統計で特筆すべき2点目は、65歳以上の国民の割合が約20%となったということです。5人に1人が65歳以上となり、労働人口の減少に直結しています。また国民の年齢中央値は43.4歳で少子高齢化が進んでいることが窺えます。

その中で政府は22年、再雇用契約の年齢制限を従来の67歳から68歳に引き上げました。26年7月からは69歳となります。ただ、パフォーマンスが落ちていく場合もある高齢者よりは若手を採用したいと考える企業が少なくないでしょう。再雇用制度はありますが、弊社の顧客では定年退職の法定年齢(現在63歳)を迎える人で再雇用されたケースは残念ながら今のところありません。

再雇用できなかった際の救済策として、雇用主は「雇用支援金(EAP)」を対象者に支給します。その金額は月額基本給の3.5カ月分相当で、上限は1万4,750Sドル(約170万円)となっています。

弊社の顧客では、現在の月額給与が1万Sドル以上という62歳の社員について再雇用しない方針で動いています。日系企業独特の年功序列制度を現地スタッフにも適用している製造業では、50~60代の管理職の人件費比率が高くなる傾向がみられます。

逆に若手が育ちにくい環境下で、リストラを計画している企業が増加しています。今後は外国人や永住権保持者、高齢の国民とのバランスを保ちながら企業の組織運営をしていくことが急務となっていきます。


弊社斉藤連載中Daily NNA 2024年11月14日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。