第248回:シニア人材の活用と注意点

先日の衆議院選挙に伴い、在シンガポール日本大使館で在外投票が実施されました。在邦人は「在外選挙人証」を保持していれば投票が可能で、筆者もその一人として投票を行いました。

投票所には筆者を含めシニア世代の方々が数多く詰めかけていました。シンガポールで永住権(PR)を持つ日本人の高齢化が進んでいるという話を改めて思い出しました。

高齢化は日本だけでなく、シンガポールも急激に進んでいます。日本の年齢中央値は約50歳と、高齢化率は世界トップクラスの高齢社会ですが、シンガポールの場合も2025年時点の年齢中央値が42.8歳と上昇しており、高齢化は深刻です。シンガポール国民の2025年6月時点の人口は366万人で、そのうち65歳以上が占める割合は21%に達しており、今後の増加が見込まれています。さらに労働年齢人口も前年比0.3%減と減少傾向にあり、経済鈍化が危惧されています。

シンガポールの法定定年は63歳です。退職・再雇用法により、この年齢に達する6カ月前に該当する社員と再雇用について話し合うことが義務付けられています。現在、再雇用の上限年齢は68歳ですが、2026年7月1日から69歳に引き上げられる予定です。

再雇用の対象となる社員の条件として、シンガポール国民または永住権(PR)保持者であることや、55歳以降も継続就労し続けていること、63歳時点で同一雇用主の下で2年以上勤務していること、かつその雇用主から仕事を評価されており、業務遂行上健康面で問題ないことと定義されています。つまり全ての高齢者が該当するとは限りません。

こうした高齢者の中でも、特にパート社員の場合、高齢労働者の雇用促進を目的として「パートタイム雇用助成金(PTRG)」制度があります。これは人手不足に悩む飲食業や小売業にとって、高齢者活用を後押しする制度です。実際に最近、飲食店などで配膳補助や片付け業務など、単純作業を担う高齢者パート社員を見かける機会も増えています。

PTRGでは、60歳以上の高齢者をパートタイムで継続雇用、または新たに雇用する企業・団体に対し、1人当たり2,500シンガポールドル(約30万4,000 円)の助成金が支給されます。条件として、既に60歳以上の高齢者を1人以上雇用していることや、柔軟な勤務形態(FWA)を提供していることなどがあります。

ただ、実際にはPTRGの存在を知らない企業も少なくありません。また、どうしても高齢者のパフォーマンスが若年層に比べて落ちてしまうことは否めません。補助金目当てで高齢者を雇う経営者も出てくるかもしれません。飲食業界の経営層からは、できればワークパーミット(WP、単純労働者向けの就労ビザ)が取得しやすい若年層の外国人労働者を雇いたいという声が多いのは事実です。そのため政府は外国人の就労ビザ発給の規制見直しを進めています。

今後は、パフォーマンスに優れ実年齢を感じさせない高齢人材と、機動力のある外国人労働者との「雇用のミックス」を進めることで人手不足を解消することが重要になるのではないでしょうか。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2026年2月19日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。