第179回:マレーシアに帰りたいスタッフに人事がすべきこと
シンガポールでは、新型コロナウイルスの1日当たりの新規感染者数が3,000人ほどで推移しています。感染者数の大幅な減少には至ってはいないものの、政府は「ブレーキとアクセル」を同時に踏みながら感染対策と経済対策を行っている状態が続いています。
飲食業界では、もともと内需が限られている上に、コロナ対策を伴う行動制限の影響を受けています。9日までは、ワクチン接種完了を証明するアプリを提示してようやく1グループ当たり最大2人の店内飲食が認められていました。10日からは、店内飲食の人数制限が最大5人までに引き上げられましたが、全員がワクチン接種完了者で同世帯に住む人であることが条件となっています。ホーカーセンターやコーヒーショップでは最大2人の人数制限が維持されます。
店内飲食の規制が一部緩和されましたが、レストラン側は客の入店時に同世帯であることを確認しなければなりません。店内では引き続き大声を出すことができず、グループ同士の感覚は1m以上空ける必要があります。こうした行動制限などの影響で経営が厳しくなり、店をたたむケースも珍しくありません。筆者がよく訪れるフードコートでもなじみの店が次々と閉店し、選択肢が少なくなってきました。
都市国家のシンガポールは、内需だけでは十分な経済成長が難しいことは明らかです。これまでは「ブレーキ」一辺倒だった入国規制も、最近は世界の動きに連動する形で次々に「緩和」に踏み切っています。ワクチン接種者を対象とした隔離なしの入国枠組みVTL(ワクチントラベルレーン)では、PCR検査を行えば事実上入国に関する規制がほぼなくなります。
まずドイツとブルネイからの渡航者を対象にVTLを開始し、10月中旬にはカナダ、デンマーク、フランス、イタリア、オランダ、スペイン、イギリス、アメリカにも運用範囲が拡大されました。今月8日からはオーストラリアとスイスも対象となり、15日からは韓国にも適用されます。
感染者数が劇的に減っている日本もワクチントラベルレーンがそろそろ適用されるかと思っていましたが、8日の入国枠組みに関する政府発表では日本は含まれませんでした。今回はマレーシア、フィンランド、スウェーデンが対象に加わりました。
弊社のマレーシア人スタッフは、シンガポールと隣接するマレーシア・ジョホール州ジョホールバル(JB)に実家がありますが、約2年間帰国していません。距離感でいうと、東京都内から千葉県にいくようなもので、コロナ禍前は毎週金曜日に実家に帰っており、移動の苦労より家族との団らんに重きを置いていました。
シンガポール・マレーシア間では、互いの国で就労する両国民の往来に関する「定期通勤取り決め(PCA)」が設定されています。移動が認められるのは陸路だけとなっています。マレーシア人スタッフは、来年2月の春節(旧正月)に合わせて長期休暇を申請しました。帰国に際し、「定期通勤取り決め」の利用を検討しているそうです。
ただこの制度を利用してマレーシアからシンガポールに戻った後、7日間の隔離が必要です。マレーシア人就労者は寮住まいだったり友人らとルームシェアをしたりする例も多く、隔離施設をこうした住まいで受けるのは難しいでしょう。そのため隔離用ホテルに滞在する必要があります。月給の半分近い滞在費を出すことにもなりかねません。企業としては、本人が有給休暇を使い果たしている場合、無給休暇扱いにする必要があります。
こうした負担増を考慮したのかは分かりませんが、シンガポール・マレーシア間では今月29日から、空路でのワクチントラベルレーンの運用が開始されます。この場合は7日間の隔離が必要ないため、費用や時間の面で航空券代を払ってもメリットがあると思います。
弊社では当該スタッフに対し、あくまで希望的な計画ではありますが、往路は陸路でジョホールバルに帰り、帰りはクアラルンプールから空路で戻ってくることを提案ました。マレーシアとのワクチントラベルレーンは22日から申請受け付けが始まります。シンガポール在住マレーシア人の間で一時帰国する人が殺到するのではないでしょうか。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年11月11日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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