第186回:またもや労働ビザの規制厳格化
世界では新型コロナウイルスのオミクロン株の影響で感染拡大が続いています。ただワクチン接種が進んでいる欧米各国を中心に、エンデミック政策へと移行しつつあります。
イギリスでは、マスクの着用義務を含むコロナ感染規制がほぼ撤廃されるという発表がありました。感染対策は自己責任でということで、社会、経済の正常化を優先した形です。
シンガポールでは今月22日より、水際対策が緩和されました。感染リスクの程度別に国・地域を4種類のカテゴリーに分ける制度で制限が最も緩い「カテゴリーⅠ」や、ワクチン接種完了者を対象に待機措置なしで入国を認める枠組み「VTL(ワクチントラベルレーン)」の下で入国する人には、シンガポール到着時に求めているPCR検査が廃止されました。
代わりに到着から24時間以内に、検査センターで自己検査を受けてもらうことになりました。入国前の検査は引き続き必要ですが、従来通り待機措置は不要です。
日本も隔離なしの対象国になるかとも思いましたが、ワクチントラベルレーン以外の「カテゴリーⅡ」のままでした。到着時のPCR検査は免除のままですが、7日間の待機措置と待機終了時のPCR検査は引き続き必要です。
日本はほぼ鎖国状態で、相互にVTLを結んでいないことから、早くても4月まではこの措置が続くかと思います。このほか入国許可証(ENTRY APPROVAL)が撤廃されたのも大きな変更点でした。かつては椅子取りゲームのごとく、限られた入国の枠を必死に探して入国許可証を申請していた時期もありましたが、ワクチンを打っていれば入国に関する障壁はほぼなくなりました。
国境が徐々に開かれ、活気あるシンガポールに戻りつつあると喜んでいましたが、政府から雇用対策で衝撃的な発表がありました。EPを取得する際に必要な給与の最低額を、現在の月4,500Sドルから同5,000Sドルに引き上げるとのことでした。
これはあくまでも「最低額」です。最近40代後半の日本人現地採用社員のEP更新のお手伝いをしましたが、給与額が8,400Sドル~8,600Sドルの水準でないとEPの更新ができませんでした。
駐在員の方は、住居手当などを含めれば給与条件をクリアできますが、給与額一本の現地採用社員は新規取得、更新のいずれも難しくなることが予想されます。
Sパスも、ビザ取得に必要な給与の最低額が現行の2,500Sドルから3,000Sドル、増加率でいえば2割もアップすることになりました。EP、Sパスともに新規申請は今年9月から、更新は来年9月から適用されます。
弊社の顧客で飲食業を営む責任者は、「従業員全体に占めるシンガポール人の比率規定が高い水準で推移している中、Sパスで外国人を雇うのはもはや無理」と「諦めムード」になっていました。
雇用政策について経済界から反発の声もあがる中、なぜ外国人のビザ規制を強めなければならないのかを考えると、40代後半を中心にシンガポール人の雇用情勢が悪化していることが挙げられます。
実際筆者の知り合いで、2年間求職中の40代後半のシンガポール人がいます。前職と同じような給与水準を求めている面接すら呼ばれないと、こちらも「諦めムード」に陥っていました。
もう一人の50代前半のシンガポール人は仕方なく倉庫業の仕事に就きましたが、給与が前職より低いことや、低学歴と思われる年下に命令されたのが嫌になり3日で退職しました。
要するに「職」はたくさんあるものの、自分の理想に合った仕事が見つけられず「俺の仕事は外国人が奪っている」と考える構図がうかがえます。このコラムでも何度も述べていますが。
企業が必要とする人材は、国籍を問わず能力がある人です。移民や外国人労働者を受け入れて成長してきた国が、今後どのように変化していくのか注視していきます。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年2月24日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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