第192回:人手不足を解消するためには
祝日の少ないシンガポールでは、日曜日が祝日で翌月曜日が振替休日になることはあまりありませんが、5月はこれが2回ありました。1日のメーデーと15日のベサックデー(釈迦の誕生日)です。
まだ様子見のところはありますが、観光客も少しずつ戻ってきているようで、街中でスーツケースを引く外国人の姿を見掛けるようになりました。
ただ、シンガポール居住者の海外旅行需要はまだ完全に回復したとはいえませんが、連休中には飲食店やショッピングモールなどはどこも人であふれており、街の喧騒に疲れてしまいました。
飲食店の需要が急に高まり、休日とはいえ午後2時を過ぎても満席の店舗を見掛けます。店側も回転率を上げるため、店頭で並ばせる代わりにQRコードを利用した電子整理券を導入し、現在の順番や待ち時間を知らせるシステムを活用しています。
自動音声の電話連絡サービスを通じて、順番がきたことを知らせる店もあります。客は待ち時間を利用して買い物ができるので便利です。店側はこうしたシステムを利用することで、余計な業務に人員を充てることなく営業に注力できます。
このほか既に定番になりつつありますが、メニューをQRコードで読み取って注文・送信するシステムも、スタッフの業務負担の削減につながります。大抵の店は、こうした注文ができない客のために対面の注文も取れる体制を整えていますが、原則的に「紙のメニュー」は廃止される方向にあります。
一部の飲食店では、料理をテーブルまで運ぶ配膳ロボットを導入しています。このようにITやロボットを使って、人手不足をカバーする試みは広がりはあるものの、引き続き「人の手」は必要とされています。
多くの飲食店が店頭に「We are hiring」といったスタッフ募集のポスターを掲示しています。最近驚いたのは、モニターに従業員が笑顔で働いている様子を映像で流し、「JOIN USNOW! 」とビジュアルで訴えている募集方法でした。
弊社の顧客は月に1回、週末に「ウオークイン・インタビュー」を行っていますが、人材の争奪戦が始まっているのか、あまり大きな効果はでておらず、このままでは人員採用計画に追いつきません。
そこで効果が見込める施策として考えられるのが、社員紹介制度の導入です。この制度では、企業が社員に対し、知り合いで自社の転職を希望する人を紹介してほしいと依頼し、新規採用者が入所後一定期間在籍した場合は社員に報酬金を与えます。
ある飲食店では、以前の報酬金が100Sドルのところを3倍の300Sドルに引き上げたところ、早速数人の採用が決まりました。
当初は紹介してくれた社員に対し、新規スタッフの採用時に成功報酬として100Sドルを支給していましたが、新人がすぐに辞めてしまうことが度々ありました。
報酬金を300Sドルに引き上げたのに合わせて、報酬金を支払う条件を変更しました。新規スタッフが「3か月の試用期間後、3か月は継続して勤務する」ことが条件です。
新規スタッフを紹介した社員がその間に退職した場合は、支給なしという制限付きで運用を始めました。社員紹介制度のほかに「人」を引き付ける施策では、福利厚生面が挙げられます。
有給休暇日数以外に、食事手当や家族手当など給与以外のベネフィットを付けることで、他社の採用条件より優位性を示すことが必要です。
業務の全てを自動化、ロボット化するのはまだ先のことになるでしょう。配膳ロボットは料理を運ぶだけで、トレーからテーブルに料理を移すには人の手が必要です。
「アフターコロナ」時代には、より良い人材をいかに効率よく採用するかが重要課題です。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年5月19日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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