第225回:就労ビザ取得時の給与水準上昇へ
シンガポール政府が先日発表した2023年の合計特殊出生率(女性1人が生涯に産む子どもの平均数)は0.97となり、1965年シンガポールが建国されて以来、初めて1.00を割ったことがシンガポール社会に大きな衝撃を与えました。
人口は592万人で、うち外国人(一般労働者、学生、帯同家族を含む)は177 万人です。永住権(PR)保持者54万人を加えると外国人比率は約4割で、年々増加しています。国民は出生率の低下によって数も割合も低下していくことが予想されています。年齢中央値は42.4歳で少子高齢化も進んでいます。
人口減少に伴う労働力人口(15歳以上64歳以下)の低下により、人手不足も深刻化してい現状もあります。
一方、外国人が国民の仕事を奪っているとの指摘もあり、特に高技能労働者向け就労ビザ(EP)を取得する条件がさらに厳しくなりました。同ビザを取得するための最低給与水準は上昇を続けており、25年1月以降に新規で申請する場合、現在の5,000 Sドル(約56万円)から5,600Sドル(約64万円)に引き上げられます。
23年9月にEP申請時のポイント制度「補完性評価フレームワーク(コンパス=COMPASS)」が導入されました。25年以降は給与の情報を入れる際に最低額を満たさないと他の基準を満たしても取得するのは難しくなると予想されます。EPを取得するには、さらに世界の大学ランキング上位に入っている大学を卒業している必要があります。ただ、そのようなエリート層は日本でも活躍の場が多くあるでしょう。
「日本人」というポジションを必要とする日系企業は多くあります。弊社の顧客で40代後半の私立大学出身の方が新規EP取得申請を行ったところ、月給1万Sドルが最低給与でした。日本では月給50万円の部長職でしたが、当地では日本円換算で110万円が最低給与となります。「これじゃ社長より上になってしまうよ」と言われましたが、住宅補助を会社から付与することで帳尻を合わせ、何とか取得することができました。
今までEPを取得されていた方が、更新申請時に倍以上の月給が必要と分かり、更新を断念するパターンも少なくありません。3カ月に一度、出張ベースでシンガポールに赴き業務を行っている日系企業の管理職の方もいます。会社の会議、あいさつ回りなどに出席する場合や、視察ツアーや研修に参加する場合には観光ビザでの入国も可能です。
しかし、その他の業務を行う場合は、原則就労ビザが必要となります。そのあたりの線引きは難しいため、今後も日本からの出張ベースが増加する可能性があるでしょう。ただ、あまりにも頻度が高いと入国管理局から目を付けられてしまい、30日の滞在許可が14日に短縮されたケースも実際に弊社の顧客でありましたので、バランスを取ることが重要になってきます。
現地採用の日本人の雇用を希望するがEP取得が難しい場合は、永住権保持者のほか、長期滞在ビザ(LTVP)保有者で就労承諾書(LOC)を取得している人を探さなければなりません。しかし、労働市場でそうした方は多くはないため難しいのが現状です。
25年以降に新しく日本人を採用する場合は人件費の計画を見直す必要があります。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2024年3月21日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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