第224回:日系企業で働きたくない理由

「新年快楽!(明けましておめでとうございます)」今年は、私の周辺では銅鑼(どら)の音もあまり聞かず、静かな「春節(旧正月)」を迎えました。華人系シンガポール人の友人家族は春節の休暇を利用し、日本へ旅行に行っています。

円安というのもありますが、華人文化圏をはじめとする多くのアジア諸国では「祝日」なのに対し、日本は休日ではないため観光地が開業していて、行動が制限されることがないのも理由だと言っていました。日本に観光に行くシンガポール人は増えていますが、日系企業で働きたいというシンガポール人が減っている感じがします。

人手不足なのはどの先進国も同様ですが、買い手市場(企業が人を選ぶ)から売り手市場(人が企業を選ぶ)になりつつある状況下、求職者はより良い待遇や将来性を見込んで仕事を選択する傾向が続いています。

弊社の顧客の大半は日系企業で、常に求人の依頼をいただいております。ジョブポータル(求人サイト)に募集を出しますが、応募者の数が少ないことに加え、書類選考通過後にこちらから連絡しても面接に来ないケースが増えています。

その理由の一つが、「募集給与の低さ」です。ある日系企業は求人マネージャー職で2,500Sドル~4,000Sドルの給与レンジで求人を出しました。上限も下限もマネージャー職のポジションに見合った給与額でないことに加え、ジョブディスクリプション(仕事の職務分掌)がマルチタスク(複数の役割)になっていたため、求職者サイドから見ると「安月給でこき使われる」印象となってしまったようです。

実際に応募してきた方は、マネージャー経験がない人や職務分掌に見合ってない人が目立ちました。限られた数の応募者の中から適合度の高い候補者を当該企業顧客に紹介しましたが、「年齢が担当者より上」という理由だけで同企業は面接を見送りしました。その年齢は3歳上の43歳でした。これは日本企業独特の「年功序列」的な企業文化からくるものです。

日本経済が右肩上がりだった時代は、長く働ければ働くほど給与ベースが上がっていく、いわば「理想のモデル」でした。そのモデルも少子高齢化社会に移行していく中で、企業にとって重荷となってしまいました。企業が一方的に従業員を解雇できない日本では早期退職制度を設けるなど、40代~50代の社員に退職を促して組織の若返り化を図ろうとしていますが、なかなか新陳代謝が進んでいないのが現状です。

一方、シンガポールでは通常、雇用契約で定められた通告期間に基づき企業が雇用契約を解除することができます。さらに日系企業の悪いイメージの一つとして性差別があります。以前シンガポール国立大学で日本語を学んでいた学生に日系企業に就職したいかどうかをアンケートしたところ、「したくない」が半数近くを占めていました。

その理由として、女性の生徒からの意見だったと記憶していますが、「日系企業には性差別が存在し、能力のある女性でも男性の上に行けない企業文化がある」とありました。残念ながらその傾向は今でもあり、世界経済フォーラムが毎年発表している「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書2023」のグローバル・ジェンダー・ギャップ指数ランキングは146カ国中125位と低迷が続いています。

もちろん日系企業に魅力を感じて働いている人もいますが、男性優位やシニアリティー(従業員の経験や年数を重視する雇用制度)といった企業文化が継続していれば、日系企業を敬遠する人は減らないことが予測できます。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2024年2月22日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。