第103回:就労ビザ規制に対しての対策 最初からSパス申請する動き
8月26日にアジア大会(アジアのオリンピック)が閉会しました。
当初は開催できるのか危ぶまれていましたが何事もなく無事に終わりました。
開催成功に気を良くしたインドネシアのジョコ大統領は2032年のオリンピック招致に名乗りを上げました。
インドネシアだけでなく東南アジアの数カ国(シンガポール、マレーシア、タイ)も含め東南アジア大会とすれば盛り上がると思います。
マラソンはシンガポール、サッカーはタイとかで行えば、観光も含め東南アジア全域が盛り上がると思います。
さて、最近どうしても話題として入れざるを得ない事項として就労ビザの件があります。
とにかくほぼ毎月のように様々な規制を出してきていますので気が抜けません。
7月1日以降効力が発生した政策をまとめますと、その1、Sパスに対しての規制強化。
ローカル社員数とPR(永住権)保持者に割り当てられるSパス取得に関して、そのローカル社員数(PR含む)の給与額が1,200ドルと引き上げられました。
100ドルのアップですが、飲食業や小売業ではインパクトがあります。
日本人の店長をSパスで雇う場合単純計算にはなりますが、600から700ドルの人件費アップになる計算です。
また下限が600ドル以上と定められ、200ドルのパートタイマーを6,7人雇っても半人前どころかカウント「0」扱いになります。
その2、「ジョブス・バンク」の求人広告掲載条件の変更。
シンガポールに拠点を置く企業で、EPを新規に申請する場合はこの「ジョブス・バンク」に14日間同じポジション、同じ給料を掲載する必要があります。
そもそもシンガポールの労働市場に駐在員となりうる人材に関しては、応募はしてくるものの、マッチ度が3割も行かない方が多く、正直巷での評判はよくありません。
ただ、FAIRNESS(公正)を保たなければならないというわけで掲載する必要があるのです。
以前は従業員が25人以下で給料が12,000ドル以上の場合、EPを取得する為のローカル人材の求人は「掲載免除」でした。
それが従業員10人以下で給料が15,000ドル以上の場合に「改悪」されました。
そもそも新規駐在員のEPを取得するために使わざるを得ない一種の「お約束」みたいなもので、よほどマッチ度の高い人材がいれば、企業としては当然雇用を考えますが、日本の商習慣に熟知し、日本語が出来て、マネージメント能力の高い方は、既に他の企業で勤務しており、ジョブス・バンク上にはそのような人材は見当たりません。
シンガポール人にジョブス・バンクを知っているかどうか聞いてみたところほとんどの人が知りませんでした。
その3、就労許可証申請者の住所を「住宅地」のみ。
これはEPの登録住所を「お店」や「オフィス」なのにしてはいけないというもので新規にEPを取られる方は、少なくとも<ちゃんとした>住所が必要となります。
部屋を貸す側としてはEPがないと部屋を貸せないということで本末転倒な感じがします。
これらの規制から考えられることは、とにかくあの手この手でEP取得を遅らせて数を減らしていくことと雇用はシンガポール人・コア(忠心)を頑なに貫こうとする政府の強い意志を感じます。
新規性により、10人以下の企業でもジョブス・バンクに14日間掲載する必要性が発生したところから、新規でシンガポールに来られる駐在員の就労ビザを最初からSパスで申請する動きが出てきています。
Sパスの取得条件は給料が2,200ドル以上、ローカル従業員雇用比率が6,7人ですべて給料が1,200ドル以上であれば、形骸化しているジョブス・バンクに14日間掲載する必要もなくなることからそのような「抜け道」が今後増えてくることが予測できます。
結局、EP取得件数が減る代わりにSパスが増えることが続きます。
しばらくは「イタチごっこ」が続きそうです。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2018年9月6日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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