第162回:旅行業界経験の現地採用日本人からの転職相談を受けて・・・

新年快楽!今年の春節(旧正月)の祝日は2月12日と13日でした。
土曜日である13日の振替休日を15日にしている企業も多かったようです。
また弊社のスタッフもそうですが、17日~18日まで有給休暇を使い「長期」休暇を取得しています。

思えば昨年の春節の時期に人の移動が増えてきたあたりから、新型肺炎(当時は新型コロナウイルスとは呼んではいませんでした)が流行し始めたかと思います。

この時期は、いわゆる忘年会、新年会、また春節の定番料理「魚生(ユーシェン)」を囲み、「ローヘイ」(皆がローヘイと叫びながらそれぞれ箸で縁起モノの具を高く持ち上げて混ぜ合わせるイベント)などが行われます。

このため昨年は人同士の接触が増えてクラスターが発生したと言われています。
その当時は、まさか世界でパンデミックになるとは想像もできませんでした。

今年の「ローヘイ」はレストランでは立ち上がらずマスク着用で声を出さずに静かに行うことが義務付けられており、イマイチ盛り上がりに欠けました。
また、ドラゴンダンス(獅子舞)も禁止です。

さて、「丑年」も始まりました。日本の株式市場はバブル崩壊後日経平均3万円を超え、コロナ禍で経済全般が疲弊しているにも関わらず上昇を続けています。

7割が海外からの機関投資家からによるものとは言われていますが、GDP等の経済指数も上向きですし、ワクチン普及によりコロナが収束に向かうことの予測から、楽観論が先行しているように感じます。

シンガポールでも昨年2020年通年のGDPが予測のマイナス5.8%から4.8%に修正されました。
景気の良い話は新年早々縁起がいいとも言えますが、旅行業界で働く方々は、未だに景気復活の恩恵を受けていません。

20年近く旅行業界で働いていましたAさんから、転職の相談を受けました。
年齢は40代と一番脂の乗っている年齢でシンガポールでも「現地採用」として数年勤務をしてきました。

旅行業界への政府からのJOB SUPPORT SCHEME(雇用助成金)も延長はされたものの、旅行業界の先行き不透明感から、昨年末解雇通告を受けてしまいました。

就労ビザはEP(エンプロイメント・パス)で1ヶ月ノーティスにより1月分の給与は支給されますが、2月以降は「無職」になります。

Aさんは旅行業界一筋で、他の業界の就労経験はありません。
もちろん、顧客に喜んでもらえる旅行の仕事が好きなので、長年同じ業界でキャリアを積んできました。

同じ業界での転職経験もあるので、これができれば一番の近道ではありますが、逆に他の業界の経験がないことが「足かせ」になってしまっています。

シンガポールでの生活にも慣れているので、なんとか転職先を見つけたいのですが、年齢的なこともあり、現在のところ見つかっていません。

また新規でのEP取得の為の給与は、40代では旅行代理店勤務時の給与のほぼ2倍になります。
以前の給与とはかけ離れており、残念ながら現実的には厳しいと言わざるを得ません。

シンガポールの日系企業の2割が日本人従業員を減らすとの報道もありますように、EP取得の規制が厳しいため、企業は駐在員のみならず、現地採用の日本人の新規採用もできなくなっています。
Aさんの「人柄」は問題ないのですが、「人柄」だけでは異業種への転職はなかなか難しいのが現実です。

ここに来てEP取得要件の厳格化がボディーブローのように外国人就労者に効いてきました。
シンガポール人の失業率が改善してこないことには、こうした規制が緩和されるのはまだ先のようです。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年2月18日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。