第167回:パートタイムスタッフの争奪戦
シンガポールでは、3月から4月にかけて、新型コロナウイルスの市中感染がほぼゼロの日が続きました。
ワクチン接種も進んでおり、同国の新型コロナ対策は、世界中からも評価されています。
しかし各種の制限措置が少しずつ緩め始めた矢先、タントックセン病院でクラスターが発生してしまいました。
すぐに対策が練られ、感染者が訪問した店舗では3日間の閉店命令とその情報開示が求められています。
4月初旬には、在宅勤務が可能な従業員のうち職場で同時に勤務することができる人の割合を、従来の5割から75%に引き上げる緩和措置が導入されました。
ただ、政府は今月4日、最近の市中感染の増加を受けて、「今月8~30日の期間中は再び5割に戻す」と発表しました。
足元では市中感染が増えていますが、政府は感染経路をおおむね把握しているため、世間的にはそれほど危機感がないようにみえます。
商業施設は大勢の人でにぎわっています。
内需が好調なのは、海外旅行へ行けないこともありますが、感染者が他国に比べて非常に少ないこともあり、市民が普通に買い物や飲食楽しんでいることが背景にあります。
ただ、その裏では、店舗側で従業員の「人手不足」が発生しています。
特に小売店や飲食店はまだ業況が完全に回復していないものの、人手不足を受けて従業員の待遇が良くなってきました。
ただ求人に応募する人は少ない状況です。
これまで小売店や飲食店の従業員は「外国人労働者」でカバーしていましたが、コロナ禍で外国人、特に隣国マレーシアからの労働力の確保が難しくなっています。
飲食店ではありませんが、インドやバングラデッシュ、ネパール、スリランカといった国に滞在歴のある長期滞在ビザ保有者や短期滞在者の入国が禁止されたことで、工事現場での人手不足も懸念されています。
外国人労働者の雇用ができないとなると、当然ながら現地従業員を確保する必要があります。
弊社は企業の採用代行サービスを提供しており、パートタイムスタッフの募集広告を出し応募者を募っていますが、最近は応募が全くこなくなりました。
時給も相場に即した金額で提示していますが、コロナ禍で小売店や飲食店での就職は敬遠されるのでしょうか。
人が集まらない一つの理由としては、小売店や飲食店よりも若干給与の高い、接触者追跡アプリ「トレーストゥギャザー(TT)」の確認スタッフに人が流れていることもあります。
TTは商業施設やオフィスビルなど人が集まる場所で入場登録するもので、入り口には登録されているか確認するスタッフがいます。
ただ、この仕事も感染が収まればなくなります。
家族ビザ(DP)保有者などが、これまで就労する際に必要だった就労承諾書(LOC)も、5月からは事実上、新規申請できず、就労ビザの取得が必要になりました。
中技能向けの熟練労働者を対象とした就労許可(Sパス)の取得要件も年々厳しくなっており、ますます現地スタッフの争奪戦が起きてきます。
もちろん、時給全体を上げるといった人材獲得競争もありますが、パート採用が困難である場合、週末に時給をアップするほか、飲食店では、家族も店舗で使えるバウチャーを配布するなどプラスアルファのベネフィットを考える必要があります。
小売店の場合は社員割引制度などが考えられます。
ある飲食店ではパートタイムの退職が続き、正社員が休みを返上してカバーしているケースもあります。
政府の外国人に対する雇用規制の強化に伴い、2020年12月時点の外国人就労者数(メイドを除く)は19年同月と比べて16%減少しました。
パイの取り合いでなく潤沢な労働力をバランスよく割り当てできる仕組みが必要かと思います。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年5月6日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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