第168回:第2期に戻る中での人事施策

シンガポール政府は5月14日、新型コロナウイルスの感染予防で新たな措置を発表しました。
最近は金曜日の夕方に何らかの発表があることが多く、企業向けの人事サービスを提供する弊社は週末もおちおちしていられません。

前週7日の金曜の深夜からは、新型コロナの高リスク国・地域からの入国者については、入国後ホテルなどで一定期間待機する措置(SHN)の期間が従来の14日間から21日間に延長されました。

そろそろ待機措置を終えて外に出られると思っていた方も1週間延長となりました。
子どもと一緒に狭いホテルの部屋で隔離されている方も少ない中、1週間延長で心が折れないか心配です。

さらに、就労ビザの仮認証(IPA)レターを取得して入国申請を認可された人で、新型コロナの高リスク国・地域への渡航歴がある場合は、5月11日以降の入国が認められなくなりました。

就労ビザ保有者についても、7日に一部例外を除いて入国許可証の新規申請の受け付けが即日停止されました。
既に航空券も予約していた方があわたただしくキャンセルする例もみられました。

政府が14日に発表した感染予防措置は、国内で経路不明の感染者が増えていることに伴うもので、5月16日から6月13日までの期間中、店内飲食が禁止されます。
経済・社会活動の制限を緩和する措置の段階で、第3期から第2期に戻ることになります。

在宅勤務が可能な従業員のうち職場で同時に勤務することができる人の割合も、5月初旬に従来の75%から5割以下に引き下げられましたが、14日の発表では「在宅勤務を基本」とするになりました。

飲食業界では、年初から市中感染が収まっていたのを受け、昨年を大幅に超える売り上げを上げる店舗もあり業況が回復していました。
ただ店内飲食を禁止する今回の措置を受けて、経営環境は厳しくなりました。

政府が月給の5割を補償することになりましたが、補償対象はシンガポール人と永住権保持者のみで、外国人は対象外です。

弊社の顧客である飲食業の担当者は、売上げ増が見込まれるとのことで、単純労働者向けの就労ビザ(WP=ワークパーミット)で先月マレーシア人のスタッフ2人を採用したところでした。
すぐに解雇することもできず頭を抱えています。

チャンギ空港に併設する大型商業施設「ジュエル・チャンギ・エアポート」では、感染者が確認されたことを受け、全店舗が5月26日まで2週間閉鎖されています。
施設内で働く全従業員はSWAB検査を受けることが義務付けられました。

同施設に入居している弊社の顧客は飲食業ではなく、小売業のため政府が5割を補償する措置を受けられません。
基本的に全従業員には在宅勤務をしてもらっており、給与の6割を支給することにしました。

生活がかかっている人もいるため、雇用を確保する上で給与を支給する救済策として会社側が譲歩した形となりました。

2週間前までは、感染状況が落ち着いていたこともあり、パートタイム労働力不足で争奪戦が起きていると当コラムでも書きました。

ただ、その後の市中感染の増加を受け、現在では一転して採用活動を「様子見」とする動きが広がっています。
6月13日までは、こうした採用活動はキャンセルとなりました。

数日前には商業施設内の店舗で働くスタッフの採用で1人を面接する予定でしたが、感染が広がっていることもあり、モール内で働くことを敬遠したのか、候補者からキャンセルの連絡が入りました。

採用する側もされる側も、市中感染者が増えている状況の下で先行きの見通しが立たないことから、採用や就職活動をなかなか前にすすめることができない状況です。

人事関係者がいまやるべきなのは、二次感染のリスクを減らすことです。
「自宅で勤務ができる授業員には在宅勤務をさせる」「発熱など体調不良の連絡が入った場合は、すぐに病院に行くことを促す」といったことが挙げられます。

第2期から第1期、さらには重要産業以外の事業所を閉鎖する「サーキットブレーカー」の期間に逆戻りすることは、なんとか避けたいものです。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年5月20日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。