第184回:2022年の昇給率について

シンガポールをはじめとする中華圏では2月1日に春節(旧正月)を迎えます。シンガポールでは2月1日、2日が祝日となります。また、春節の大みそか(1月31日)は、多くの企業が半日休みあるいは社休日としています。

この3日間は大抵の小売店が閉店し、家族と過ごす時間が増えます。人同士が接触する機会が多くなるため、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されています。

ただシンガポール政府はエンデミック化に向けた政策にかじを切っていることから、従来以上に厳格な行動規制は敷かず、「店内飲食は1グループ最大5人まで」といった措置を維持する方針を示しています。

水際対策については、日本からの入国者はワクチン接種者であれば7日間の隔離措置と、隔離終了前のPCR検査が義務付けられているだけです。以前行われていた入国時のPCR検査は停止されました。

これも新型コロナの新変異株「オミクロン株」の重症化リスクは低いとの判断からですが、また新たな強力な変異株が発生した場合は再開するかもしれません。感染状況次第で入国規制も刻々と変わるので、人事担当者は常に政府の発表に注視する必要があります。

シンガポール政府は21日、コロナ関連の「緩和策」の一環として、ワクチンを接種済みで過去90日以内に新型コロナウイルスに感染・回復した人に対し、入国時の検査や待機措置を免除すると発表しました。

24日午前0時以降に入国する人に適用されます。感染回復後は新たに感染する・させるリスクが低いとの科学的見地からの判断です。こうした政策からも、エンデミック政策を推し進め国境を開いていく政府の強い意志を感じます。

さて、2022年の昇給率の予測が各コンサルティング会社から発表されています。最近では21年12月の消費者物価異数(CPI)が前年同月比から4.0%上昇したという政府発表もありました。昇給率が2%台では、名目賃金が上がっても実質賃金が下がることになります。

物流コストや人件費の上昇などインフレ局面が続くことが予測されており、その結果22年の昇給率の予測も3%台になるとの見方が多く出ています。コロナ禍が今年中に収束すると予測する専門家もいる中、「今のうちに人材を確保しないと人材獲得が間に合わないかもしれない」という危機感を持つ経営者もみられます。

人材のリテイン(雇用維持)には、今年の昇給率をどう決めていくかが人事政策の肝になります。ただし、景気回復に差が出る「K字回復」でIT関連など業績が上向きの企業と、旅行やイベント関連など業績が思わしくない企業で明暗が分かれています。

弊社の飲食業の顧客では、同業他社の動向も見ながら5%近い昇給を予定しています。昨年10月以降、客数や売り上げが伸びており、社員に春節のボーナスも支給して今後のさらなる業績回復を見込んでいます。

日系企業の賃金上昇率は3%~5%で推移すると予測できます。日系企業の昇給の考え方は、なるべく差別化せず平均化する傾向ですが、優秀な社員には高い昇給率、そうでない社員には平均より下げるなど強弱付けることで、逆に「フェア」な昇給原資の分配ができ組織も活性化することが考えられます。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年1月27日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。