第133回:なぜ入社して半日で辞めてしまうのか

最近、出張でシンガポール国外に出る機会がありました。

チャンギ空港に行く度に感じることは「自動化」が進んでいることです。

ボーディングパス発券の自動化には既に慣れておりますが、チェックインラゲッジ(預かり荷物)もどんどん自動化になっており、発券後、預かり荷物の個数を申告し自分で印刷してタグを荷物に付け、自分で手荷物預け機の中に入れなければなりません。

カウンターには人はおらず、ヘルプサポーターが周りにいるだけです。

もし荷物が重量オーバーの場合は、恐らく自動的に追加料金が加算され料金を払わないと飛行機の中に運ばれないシステムなのだと思います。

このようにシンガポールの場合は各所でAI(人工知能)やIT技術を駆使して無人化を推進して行く方向にあるようですが、筆者を含め使用者がマシンに翻弄されているケースも随所に見られます。

また今までカウンターで仕事をしていた人たちの仕事がなくなり、雇用の機会を奪っているのではとも思いました。

雇用機会といえば、シンガポールは職種によっては、まだまだ供給不足が続いています。

飲食業や流通業では引き続き人手不足が続いており、募集広告にシンガポール人オンリーと書いても応募者は近隣諸国とりわけフィリピン、マレーシアが圧倒的に多いのが実情です。

その中でようやく良さそうなシンガポール国籍保持者を見つけたとしても次のハードルは面接設定です。

最近は電話を取らないケースも多い為、テキストベースでアプローチをしますが、見たのか見ていないのか中々連絡がつかないケースも増えています。

また候補者自身が複数の企業に自分のプロファイルを送っている為、応募したこと自体を忘れているケースもあり、既に他の仕事を見つけている場合もあります。

やっとのことで、面接を設定することができた場合、面接担当官のスケジュールを合わせ、当方も面接会場に向かいますが、飲食業の候補者に関しては、面接に合意したものの、当日のドタキャンが多くみられます。

もちろん何度も連絡を試みますが、電話もSMSも返事はありません。

面接を辞退をする場合は、他の仕事が見つかった、家族関係で急用ができてしまった等、嘘でもいいので「事前連絡」はすべきだと思いますが、どうもこの辺の常識が低いのでがっかりします。

さて、ある企業では面接を経て、ようやく入社が決定しました。

入社日に雇用契約を済まし、担当部署に配置し、ほっとしたところ、午後になり担当者から午前中に入社した新入社員がランチから帰ってこないとの連絡が入りました。

この「ランチタイム退職」は最近続いており、前述のように採用にこぎつけるまでには相当な労力を費やしており、そこで半日で辞められていますと、また「振り出し」に戻された感は否めません。

では、「ランチタイム退職」の理由としては、入ってみたが思ったほど楽でなかった。

周りの人間との相性が悪かった。

等ですが、要するにきつい(と思う)仕事を我慢してまでしたくないということなのでしょう。

しかし、これではあまりにも耐性がなく身勝手すぎます。

とあるトップクラスの大手商社の場合、人事担当官との一次面接、担当部長との二次面接、最終の社長面接の3度の面接をクリアして入社した方が、ランチタイムに辞表を出して辞めていきました。

会社(給料)、部長、社長すべて良かったとのことですが、配属された部署にどうしても生理的に合わない社員がいた為、「無理!」と思ったのか、すぐに去りました。

その後、当該社長は人材紹介会社に激高しました。

そのうちチャンギ空港のように、技術進歩によって民間企業も人を無理に雇わずに済む時代が来るのかもしれません。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2019年12月12日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。