第222回:COMPASS導入によるEP申請時の留意点

新型コロナウィルスがまたはやり出しました。シンガポール保健省のウェブサイトや交流サイト(SNS)を通じて注意勧告が出されています。

弊社の社員の家族も感染し、幸い同社員は陰性でしたが、念のため2日間自己隔離をしてもらいました。弊社からの派遣スタッフは、陰性となった後も重い咳の症状が続き、治療に専念するため退職を余儀なくされました。

少し前に、弊社顧客の駐在員の交代人事で日本から赴任された方で、シンガポールに到着して3日後に感染が発覚した方がいました。この駐在員の赴任は9月初旬を予定していましたが、EPが発行されたのは10月下旬になってしまいました。

EPを申請する際には、まず政府管轄の人材募集サイト「MycareersFuture.com」に、募集職種や待遇面などを14日間掲載しなければなりません。昨年までは28日間だったことを考えると少しは改善されたものの、依然としてすぐには申請できません。

また掲載期間完了直後に申請しようとすると、EP取得目的の掲載との疑義がかけられ、MOMから査察が入ることがあります。そのため、掲載後3~4日空けてから、「シンガポール人を採用することを試みたが、該当者がいなかったためEPを申請します」という申し入れが必要になります。

こうした流れを経て、ようやくEPの取得申請を行うことができるようになります。

2023年9月から、EP申請時のポイント制度「補完性評価フレームワーク(COMPASS)」が導入されました。「給与」「資格」「国籍の多様性」「現地雇用」の4つの「基本基準」が設定されており、「ボーナス基準」が適用される特殊なケースを除けば、それぞれ20点満点で合計40点以上を取れないとEPが申請できません。

この駐在員の場合は、給与水準の高い大手企業に勤めており、大卒で、多くのシンガポール人従業員が在籍し、住宅手当も給与の一部として加算されるなど、条件をクリアすることができたためEP申請はできました。申請後、仮許可(IPA)は下りたのですが、発行の条件として、下記の追加書類の提出を求められました。

「事業を行う場所の賃貸契約書」「直近3か月の地元銀行との取引明細」「直近の会計監査報告書」の3点です。提出理由は一切示されませんでした。その審査期間が意外と長く、最終的にEPの発行認可が下りたのは10月下旬となり、交代人事の引き継ぎが伸びてしまいました。申請から取得までの期間が50日ほどかかったことになります。

他のケースでは、年齢が47歳であったことに加え「Financial Director」と金融系でのEP申請を試みたため、月額給与が1万2,000Sドル以上でないとCOMPASSが通らないことが判明し、日本で支給されるボーナス2回分を加算してその水準まで引き上げました。

日本から来られる新規駐在員の給与体系はもともと日本円で計算されているケースが多く、シンガポールドルに換算すると昨今の円安により目減りしてしまいます。その場合は、生活費インデックス等を活用し、生活費の高い当地で生活するための調整給により、給与水準をCOMPASSで求められる水準に合わせることも必要となる場合があります。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2023年12月15日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。