第223回:従業員の勤続勤務のために必要なこと

明けましておめでとうございます。本年も「人『財』羅針盤」をよろしくお願いいたします。

日本では元旦に北陸で大地震が起き、2日には救援物資を積んだ海上保安庁機と着陸してきた旅客機が滑走路上で衝突する事故が起きるなど大きな災難が続きました。

当地では自然災害のニュースは少ないですが、昨年は経営状況の悪化による日本企業の撤退などの暗いニュースが比較的多くありました。その一つとして、日本食レストラン「大戸屋」が挙げられます。



大戸屋は2009年、中心部の繁華街オーチャード通りの商業施設「オーチャードセントラル」にシンガポール1号店を開店しました。当時は日本人の調理スタッフも数人勤務しており、日本と同じ味を楽しむことができたため、昼食時は並ばないと入れないほどの人気でした。

その後数店舗を新たに出店しましたが、日本人スタッフがいなくなり、食材も現地のものに代わり、メニューには「提供不可(Not Available)」の文字が目立つようになってしまいました。

そうなると客は失望し、店は衰退の一途をたどりました。新型コロナウイルス禍により、一度退職した従業員が戻ってこなくなったことも、経営難に追い打ちをかけました。その結果、大戸屋は23年7月に当地から完全撤退することになったのです。

家賃の急激な上昇に売り上げが追いつかなくなることが、撤退の主因となる場合もあります。家賃高騰を避け郊外や商業施設の中の目立たない場所で開業をしても、客数が減り回転率も下がるため、撤退につながる可能性があります。

大通りから離れた露店で焼き鳥店を経営していた知人がいましたが、リピート客はいたものの新規顧客をなかなかつかめず継続できませんでした。

家賃上昇が落ち着いてきた最近の最も懸案される事項は人手不足です。ある飲食店のオーナーは、「募集広告を出しても応募者すら来ない。採用しても良い条件を求めてすぐに辞めてしまう」と嘆いていました。

即戦力となり、できるだけ長く勤務してもらえるスタッフを採用する方法としては、入社して3カ月から6カ月過ぎたあとに「正社員昇格ボーナス」を支給することや、傷病休暇を取らず無遅刻のスタッフに100Sドルを支給するなど、継続勤務に対してのモチベーションを高めることも重要です。

チャンギ空港に併設されている大型商業施設「ジュエル・チャンギ・エアポート」で働くスタッフに郊外の空港で働く手当として「へき地勤務手当」を支給するといった例もあります。

一方、ボーナス支給が逆効果となった事例として、店が従業員から友人や知人を紹介してもらい、勤続6カ月を超えたら紹介ボーナスを支給することを約束していたケースがあります。

このケースでは、紹介で入社した知人が他の従業員との人間関係の不和で6カ月経たずに辞めてしまったため、ボーナスがもらえなかった従業員と店との関係性まで悪くなってしまいました。

友人が入社すると、互いになれ合いで仕事をするため、私語が多くなったり他の社員への悪口を言ったりするなど、全体的にはよくないケースが目立ちます。最近は、時給を上げるだけでは従業員の継続的な勤務を期待することが難しくなってきました。

短期で撤退しないようにするためには、継続して勤務してもらえる従業員の確保が
重要課題となっています。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2024年1月18日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。