第170回:第3期に戻る中での人事施策

シンガポール政府は6月10日、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いてきたことを受け、感染対策を「第2期の高度警戒」から「第3期の高度警戒」へと移行し、段階的に規制を緩和する方針を発表しました。

14日からは、集団活動の人数の上限が従来の2人から5人に引き上げられました。
弊社でも早速、14日に3人で対面会議を実施できました。
現在禁止されている店内飲食については、このまま感染が収まれば21日から解禁される予定です。

今回の政府発表で日系企業が期待していたことは、就労ビザ保有者の入国が「いつ」認められるかでしたが、これについては一切触れられませんでした。

MOM(人材開発省)やICA(移民局)から、関連した内容の通達や連絡もありませんでした。
恐らく国内の感染状況の収束が先決で、対外的な対応は後回しなのでしょう。

飲食店の関係者は、21日からの店内飲食解禁でようやく営業が再開できると安堵しましたが、再び感染が広がれば規制がかかるとのことで、サプライヤーからの食材調達など難しい対応を迫られています。

中でも一番大変なのはマンパワーの調整です。
パートタイム労働者は飲食店で仕事ができないということで、第2期の間に流通業など他業種に流れています。

このため、21日の営業再開に向けて、アルバイトの募集、面接を急いでいます。
弊社の顧客である飲食店の社員は外国籍でSパスを保有しています。

5月以降出社できない状態にあることから、有給休暇と代休を利用して母国に一時帰国したいとの相談がありました。
さらに帰国するにあたり、給与の前借りをしたいとの要望も受けました。

母国に戻ってからも社員のシフト管理など仕事は引き続きできるため、給与は払ってほしいと言われており、飲食店の経営者からどう対応したらよいかと相談を受けました。

Sパスは有効期限が今年の12月まで残っており、このまま何も問題がなければ更新をする予定でした。

ただ一度帰国しても、母国は入国規制がかかっている感染高リスク国・地域のため、いまのところシンガポールに入国できません。

この社員は店舗にとって重要な人物で、ほとんど有給休暇を取得せず、祝日出勤の代休もたまっているため休業期間中に一度母国に戻りたいとのことで、従業員の「権利の行使」のため帰国を認めざるを得ません。

ただし、休暇取得期限が切れた後も入国期限が続き、シンガポールに戻ってこられないことが考えられます。

この場合、当面は無給休暇扱いとし、Sパスの更新時期がきたら更新せず雇用契約を解除すべきだと提案しました。

母国に戻って現地で転職し、家族の状況などを考慮しながらそのままとどまるケースがかなり見受けられます。

また、「給与の前借り」ですが、これはすべきでないと提案しました。給与は賃金計算期間を通常1ヶ月として計算し、同時期を過ぎてから5日以内に支給するのがルールです。

この社員がいくら有能でも、特例は与えるべきではありません。
本人がどうしても資金的に余裕がないのであれば、社長自ら自己資金で立て替え、本人への給与自動振込を一旦止めます。万が一返済できない場合、給与から相殺すべきです。

他社では、従業員が医療費を前借りし、母国に帰った後に音信不通となって返済不能に陥ったケースがあります。

新型コロナの影響で従来とは異なるオペレーションが続き、労使双方「イレギュラー」な状態への対応が迫られています。

こうした中で、有給休暇取得や給与の支払いの方法など、できるだけ「レギュラー」な状態を保ちながら、コロナ収束後に業務が通常通りに戻るまで持ちこたえるしかありません。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年6月17日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。