第207回:日本企業と欧米企業の賃上げ

正月三が日が過ぎ遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。シンガポールではまだ新型コロナウイルスの感染者数はゼロではありませんが、2023年は経済再開が加速することを期待します。

22年の正月と違うのは急激な物価高と消費税(GST)税率の引き上げで、新年早々、全ての価格が上がっている印象を受けます。特に物価はいつも購入しているものが22年と比べて10~20%近く上がっていると実感しています。消費税の税率は23年1月1日から従来比で1ポイント上昇の8%となりましたが、24年には9%に上がります。

最近オフィスの賃貸契約の請求書を見て、「あれ?数字が間違っている!」と一瞬思いましたが、よく見ると増税分が上乗せされていました。日系企業の動きでは、1月から一部の企業で「昇給」「昇格」を実施する例がみられます。

23年の春節(旧正月)の祝日は1月22~24日のため、給与支給日を25日としているところでは、20日に早めの支給を計画しているケースもあります。日本では岸田首相が経済界に対し、物価高に対応するために賃上げを実施するよう求めています。

ただ企業側は原材料費の高騰やウクライナ紛争、為替の乱高下などにより、大胆な賃上げの判断ができない状況が続いています。先日、日本のテレビ番組で賃上げに関するニュースを見ていましたら、コメンテーターが「日本の賃金水準はほぼ横ばいで推移しているが、欧米の失業率は10%を超えている。日本の完全失業率は22年11月が2.5%となり低水準だ。賃金は上がっていないが雇用が守られている」と説明していました。いわゆる「横並び的なバランス型」の考え方です。

一方、欧米や韓国、中国では「人」ではなく「ジョブ」に給与を与えることが主流で、また業績が悪化すれば、大量解雇も躊躇なく行います。最近では米アマゾン・コムが1万8,000人の大規模なレイオフ(一時解雇)を発表しました。日本では解雇が厳しく制限されており、大手企業が約2万人の解雇を断行することは難しく、賃金据え置きで雇用を優先する傾向があります。

シンガポールの日系企業の平均昇給率は、欧米企業と比べて低い傾向が続いています。その背景として日系企業は上述の「バランス型」であり、昇給原資100に対し、例えば従業員3人を対象にそれぞれ33%、33%、34%平均化して振り分ける傾向があります。

一方、欧米型は原資100に対し、従業員2人にそれぞれ20%、80%と人によって大きく差がつく例が目立ちます。「ジョブ」を完遂できない人には20%、できる人には80%と差をつけることが「公平」という考え方です。

日本語的には「ひいきの昇給」です。ひいきは悪い意味で捉えがちですが、昇給の世界では、できる人を優遇するという意味です。シンガポール人も人によっていろいろな考え方を持っていますが、日系企業に対して「賃金が(欧米企業と比べて)安い」というイメージを持つ例が少なくありません。逆に日系企業の良い点は雇用を守ることです。

しかし、向上心の高いスタッフの場合、より高い賃金や手厚い待遇を求め、日系企業から非日系企業に流れることも予測できます。日本型と欧米型にもそれぞれ長所・短所はありますが、消費税引き上げや物価高が続く現状下で、名目賃金ではなく実質賃金が上がっていくことを期待します。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2023年1月12日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。