第49回 人事担当者のお悩み その9 退職願いが出てしまったら・・・

前回のこのコラムでも最近の高気温について述べましたが、とにかく暑さはさらにヒートアップしたような気がします。

シンガポールには10年程住んでいますが、これほど暑くは感じたことはありません。他のアジア諸国を見てみても、タイの北東部では雨が殆ど降らず干ばつが続いており、農家は経済的大ダメージを受けています。

インドでは気温がついに50度を突破しており死者がでております。シンガポールでは昨年この時期にはヘイズが発生しており別な意味で息苦しい日々が続いていましたが、幸いにも今年は発生していません。気候の変動は世界的なテーマでもありますが、いつも暑い東南アジアで気温が36度、37度になりますと少々オーバーですが生命の危険を感じます。

さて、今回のお悩みは、「退職願を出したスタッフを何とか食い止めたい」です。この相談はたまたま同時に二社承りました。

ケース1:「結婚するので退職したい」20代後半のローカルスタッフから退職願が提出されたケースです。

日本では「寿退社」という言葉が以前は当たり前のようにあり、結婚=家に入り夫をサポート=おめでたい退職というのがあります。シンガポールでは結婚すなわち退職という図式はまずほとんどありません。

夫婦共働きが普通ですし、どちらかと言うと女性の管理職も多く、結婚が仕事のゴールではありません。

他の国にない小学生を持つシンガポール女性の退職事例としては、子供の教育、特にPSLE(Primary School Leaving Exam) という小学校卒業試験つまり全国統一センター試験の際に、子供の将来を憂えばかり半ばノイローゼ状態になり仕事が手につかず辞めてしまうケースがあります。

退職願

話を戻しますと、この寿退社は一つの理由ではあるとは考えられますが、真の理由ではないのが現状です。

組織に、仕事内容に、待遇に不満があると、社員は「辞める理由」を模索し始めます。このローカルスタッフの場合、結婚を機に退職(いずれは転職)を決意したと考えられます。

当該会社にとりましては、残ってもらいたいスタッフでしたので何とか慰留をする方法はないかということで、良く聞いてみたところ、同じ部署にいる先輩社員と性格が合わず悩んでいたことが分かり、配置転換と結婚時での長期無休休暇を認めることにより残留を決意しました。

ただこの会社にアドバイスしたのは、このスタッフもいずれは退職する可能性が高いことから、代替要員の準備は始めるようにと伝えました。

ケース2:上司の転勤により退職願が出たケース。新規進出の日系企業で最初に雇用された日本人現地採用社員の上司が人事辞令により転勤となることが決まり、その社員から退職願が出ました。

新社長は現在の社長とは当然ながら性格も仕事の流儀も違うことを敏感に感じたようです。

他の国に異動になる現地責任者からは、「私は去るが、何とか新社長の元でも残って欲しい」と相談されました。

ただ、このケースはかなり「属人的」な要素が含まれており、彼女にとっては最初の社長に従事することに仕事の喜びを感じており、新社長が引き継ぎに来られた際に「この人の下では・・・」と思ってしまったケースです。

この場合は慰留に関しては、かなり難しく、無理に組織的に合わないコンビネーションを持続させるよりは、新社長の新体制の元での新方針に合う社員を新たに雇用することを決意致しました。

無理に慰留させるより、「円満退社」をさせて組織の更なる成長を促すということとなりました。

最後に格言ですが「いつまでもあると思うな親と金」に倣い、「いつまでもいると思うなベテラン社員」で締めたいと思います。

Daily NNA 2016年5月26 日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。