第14回 ASEAN進出企業のジレンマ: その3 真の現地化とは・・・

スズキカップ

先般、シンガポール在住の長い方とサッカーのASEAN(東南アジア諸国連合)選手権(現地では冠スポンサーがスズキであることからスズキカップと呼ばれています)、シンガポール対マレーシア戦を見に行きました。

5万人収容できるナショナルスタジアムはほぼ満員でした。国際サッカー連盟(FIFA) のランキングでは158 位と155 位の試合でしたので実力はほぼ互角。日韓戦のようなライバル意識がお互いにあり、勝った方が決勝リーグに進出できるということで注目されました。ちなみにサッカー東南アジア最強はフィリピンの128 位です。

一番感動したのは国歌斉唱の時に若者も大人も小さい子どももシンガポール国歌を大声で斉唱したことです。「意外と」と言ったら失礼に当たるかもしれませんが、シンガポール国民の愛国心を垣間見ることができました。

さて、今回はASEAN全域で飲食サービスのブランディング戦略を手掛ける新規進出企業について話を進めていきます。

この企業は日本では全国的に有名な飲食チェーン店で早くから海外進出を果たしました。弊社には会社開設からオープニングスタッフの手配までの代行サービスを依頼されました。

このままでは海外の売り上げも頭打ちになるとの危機感があり、先手を打ってさらにマーケティング戦略を推し進めて行くとの強い決意の下、来年早々にシンガポールへ進出してきます。順調に成長している企業だからこそ次の戦略を真剣に考えています。

日本企業のいわゆる「グローバル戦略」とりわけアジア(ASEAN)戦略では、1)とにかく生産・サービス拠点を海外に移す、2)ビジネス(売り上げ・利益獲得)を現地で展開していく、3)そして現地化を進めていく――の、3つの波で進められてきました。今はスピードを要する時代ですので、1)~3)を同時に進めなければ競争に勝てなくなっています。

かつてはある程度社歴を重ねた経験者が海外に赴任し、「日本のやり方」を「日本人」が進めてきましたが、最近では「現地化」「ローカリゼーション」が日本企業の一つのトレンドになっています。

しかしながら、現地で働くシンガポール人に「日系企業で働きたいと思いますか?」と質問をすると、「頑張っても上に行けない」「日本人駐在員は2~3年で代わりまた今までやってきたことが振り出しに戻る」「会議も研修もすべて日本人だけでやっている」「男性優位で性差別が存在する(女性からの意見)」等、厳しい意見が聞かれます。

すべての日本企業がそうではないと思いますが、典型的な日本企業のイメージが出来上がっています。

また最近では駐在員の若年化もみられ、年上の現地社員をうまくコントロールできず、そもそも言葉の問題でうまくコミュニケーションが取れず、少々ノイローゼ気味の社員が増えてきているようです。

「駐在員」であるからこそ日本本社を見ながら仕事をしなければなりませんし、現地のスタッフが思うように働いてくれないストレスで自己不信に陥り、次第に心が疲れてしまうパターンです。毎晩日本式居酒屋でシンガポール人の悪口を日本人と話しなら憂さ晴らしをしている姿をたまに見かけます。

社内公用語は英語、現地契約が基本の欧米企業と比べ、日本企業は伝統的にどうしても日本語、日本の独特な商習慣で企業運営をする必要があります。当該進出企業もとにかく最初のオープニングスタッフには日本を知っている人を求めています。

日本語にはこだわっていませんが、日本の商習慣を熟知し、なおかつグローバルな視点を持っている方に右腕になってもらい、将来はポストを譲るとの確固としたプランです。

日本企業が「真の現地化」を進めるのには、日本企業の良い所を全面に出し、「日本のやり方」にも慣れているキースタッフをメーンに据え、サクセッション・プランニング(後継者育成計画)に基づき、将来への道標を作るところからスタートするべきだと思います。日本企業の強みは「人材育成」ですから。

Daily NNA 2014年12月11日号より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。