第15回 ASEAN進出企業のジレンマ: その4 就業規則の重要性 <1>

最近のニュースによりますと、シンガポールの就労者は就労時間中の1割近くをネットショッピングやソーシャルメディアに費やしているとのことです。

弊社にも20 代と30 代の女性スタッフが私のすぐ近くで仕事をしていますが、時々「フェイスブック」やスマートフォンで「LINE」をしているのを見かけます。

問題なのはそれが「公・私」のどちらか分からない場合です。

例えば、いわゆる「ネットワーキング」でフェイスブックは重要な役割を果たしていますし、お客様への連絡手段として他のソーシャルメディアを使う場合があるかもしれません。

ただ勤務中にトイレにスマートフォン等の端末を持って行き、音を消してゲームで遊んだり、今日食べたものを「アップ」したり、トイレの空間が「私」の時間になっているのはよく聞きます。ただそこまで介入できませんので、社員のモラルを信用するしかありません。

以前、勤務中の約7割を「スカイプ」のチャットに費やしていたマレーシア人従業員がいました。

本人は上司や同僚が近づくとすぐさま他の「仕事画面」に切り替え、覆面就労をしていました。もちろん経営を行っている以上、「不正」は見逃してはいけません。

疑惑が重なっていきますと、会社全体の雰囲気も悪くなっていきます。また真面目に就労している社員に対しても不公平となります。

この場合はしっかりとエビデンス(証拠)を押さえ、注意、忠告を行いましたが、それでも続けていましたので、残念ながら職務規律違反で辞めて頂きました。

このように、IT技術の発展とともに以前では考えられなかったような「不正」が発生していますが日本でも学校の先生が勤務中にいかがわしいHPを勤務中に見ていることが発覚し懲戒処分になっていたりします。

企業は千差万別で、その企業のカラーにあった社風や規則があります。

この規則を定めたものが「就業規則」です。日本では労働基準法により、労働者が10 人以上の企業は所轄の労働基準監督署に提出する「義務」が法で定められています。この労働者は正社員だけでなく、臨時的、短期的な契約社員も含んでいます。

最近、日本では「ブラック企業」のような言葉が世間でささやかれ、社員が長時間労働でうつになり会社を訴えるケースも増えて来ています。

労働紛争になった場合は、労使で締結した雇用契約書と共に「就業規則」の内容が重要になってきます。弊社の提携人事コンサル会社のメーンの仕事は、社員からの提訴に対応するお手伝いです。それだけ労使紛争が増えてきているのです。

さて、当地シンガポールは、大前提として就業規則を作る義務はありません。その代わり「雇用契約」が全てです。日本人は「会社」との雇用契約ですが、現地の方は「ジョブ=仕事」との契約です。

欧米企業の雇用契約書を見ますと、職務分掌(ジョブ・ディスクリプション)がきめ細かく書いてあり、席についた瞬間その仕事を始めるのが一般的です。

シンガポールの日系企業では、日本本社の企業統治上、就業規則を定めていく傾向が強くなってきています。冒頭で触れました「私用」電話、ネットを規定内で定めるのも最近の傾向です。

携帯電話に関しては、就業中はスイッチ・オフにするかマナーモードと定めています。前の会社の社員は彼氏から一日にSMS(ショートメッセージ)が100 通届くと自慢していました。もちろん双方とも就業中に送り合っていたのは言うまでもありません。

このように現代に合わせた「就業規則」を作成し、労使双方が企業の中の「憲法」をお互いに認知し、信賞必罰のもとで最高のパフォーマンスを出すことが成長過程につながっていくと信じます。

Daily NNA 2014年12月26日号より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。