第201回:MICEビジネス復調の兆し

スイスのビジネススクール国際経営開発研究所(IMD)が2022年の世界デジタル競争力ランキングを発表しました。「技術」「規則の枠組み」など54項目の評価を基にランク付けしています。

1位はデンマーク、2位は米国、3位はスウェーデンとIT先進国が上位を占めました。4位には前回の5位から順位を一つ上げてシンガポールが入りました。一方、日本は順位を一つ下げて29位と後退しました。

日本では昨年9月に「デジタル庁」が発足しましたが、シンガポールでは既に日常生活の中でデジタル化が広く普及しています。レストランではQRコードからメニューを選び、配膳ロボットが注文したメニューを運ぶのという光景は珍しくなくなりました。

先ごろ、シンガポールで医療機器関連の大規模な展示会がありました。新型コロナウイルス禍前の展示会では、会場入り口で「出展者(Exhibitor)」などと書かれた紙製の入場証を受け取り、これを首から下げて会場に入っていました。

今回は事前にQRコードを申請し、当日は会場入り口に設置された端末にスマートフォンでコードをかざして入場する形になっていました。

簡単にQRコードを申請できたり、イベント運営側もスムーズにQRコードでの入場確認ができたりしている点などが、上記のデジタル競争力でシンガポールの高評価につながっているのでしょう。

弊社は今回の展示会で、ある出展者から通訳者派遣の依頼をいただきました。展示会でこうした依頼を受けるのは約3年ぶりです。展示会向けの通訳者派遣はコロナ禍前にはほぼ毎月のように依頼がありましたが、コロナ下では全くなくなっていました。

弊社で登録している通訳者やイベントスタッフも約3年ぶりに仕事に復帰できました。会場ではマスク着用の義務もないため、コロナ禍前の状態に戻ったと喜んでいました。

このほか先週には、大規模イベントとして3年ぶり自動車レース「F1シンガポール・グランプリ(GP)」が開催されました。地元紙によると、観客動員数は30万2,000人で過去最高を記録し、かなり盛り上がりました。街中では外国人観光客が多数見受けられました。

このように展示会や大規模イベントが滞りなく開催されることで、MICE(会議、視察、国際会議、展示会・見本市)ビジネスが急速に復調しているのを肌で感じます。

MICEビジネスが回復することにより、新たな雇用も創出されるほか、イベント参加者が宿泊するホテルの稼働率も上がります。参加者は飲食や買い物もしますので、シンガポール経済全体の押し上げ効果が期待できます。

来週には日本の食材を扱う展示会が予定されており、日本からの出展者も数多く来られます。弊社も通訳者の派遣依頼をいただいています。弊社のような人材会社もMICEビジネス復調の波に乗ることで売り上げ増につながります。

今年のF1が観客動員数で成功したのを受け、他のイベントも今後ますます増えていくことが予測できます。今までイベントが開催できなかった反動でMICEビジネスが活況を呈し、シンガポール経済のV字回復の起爆剤になってほしいものです。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年10月6日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。