第213回:アフターコロナによる労働人口の増加

日本での新型コロナウイルスの水際対策(3回以上のワクチン接種証明書または陰性証明書の提示)が5月8日からなくなります。

シンガポールやタイを含む他国では、中国本土やインドからの渡航者を除いて既に短期滞在者には国境を開放していますが、日本もようやく「開国」し、シンガポールとの往来が元通りになります。これでますます日本からシンガポールに来られる方が増えていくことでしょう。

4月に入ってからは、駐在員のシンガポールヘの入国も増えており、弊社ではほぼ毎日のように顧客から依頼を受け、高技能労働者向けの就労ビザ(EP)を申請しています。

MOMが3月に発表した2022年12月末時点での外国人労働力統計によると、EPの保有者数は21年12月の16万1,700人から22年12月には18万7,300人へと2万5,600人増加し、15.8%も上昇しています。

これまでの伸び率は前年比4 %ほどでした。コロナ禍が終わって他国からの投資案件が増えたこともあり、日系企業だけでなくさまざまな企業で、EP申請が急激に拡大していることがうかがえる結果となりました。

中技能熟練労働者向け就労ビザ(Sパス)に関しても、21年12月の16万1,800人から22年12月には17万7,900人と1万6,100人増え、10.0%上昇しました。シンガポール人の雇用比率を守らないと取得できないなどハードルが高いにもかかわらずです。

これまで単純労働者向けの就労ビザ(WP)を取得していた、高等教育を受けたマレーシア人労働者の給与上昇により、Sパスに「昇格」した人たちが増えたことも数字の上昇につながっています。

弊社の顧客でも、WPからSパスに変更したマレーシア人が先月は3人いました。そのWPですが、21年12月は84万9,700人でしたが、22年12月には103万3,500人と初めて100万人を超え、上昇率は21.6%と記録的な数値になりました。うち建設・造船・プロセス(石油、化学など)分野の上げ幅は3割と高水準でした。

コロナ禍で停滞していた各工事のプロジェクト、都市高速鉄道(MRT)新線のインフラ整備などで、遅れていた工期を取り戻そうと、企業が外国人労働者を多数集めていることが背景にあります。

全ての数字が上向きかと言えば、減少した数値もあります。「その他の就労ビザ」のカテゴリーです。21年 12月では2万7,200人でしたが、22年12月では2万5,400人と前年から6.6%減少しました。

以前はEPやSパスで外国人を採用できない企業は、家族ビザ(DP)保有者に就労承諾書(LOC)を取得してもらうことで雇用を確保していましたが、それができなくなったことが影響しています。日本人の中でも仕事をしたい優秀なDPの方がいますが、就労ビザを取得しない限りは働けなくなっています。

EP申請に関しては今年9月1日からポイント制度「補完性評価フレームワーク(コンパス)」が導入され、新指針に従う必要があります。経済成長に伴い、今後 はDPの人たちが働ける何かしらの新しい労働許可証 が出ることに期待します。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2023年4月13日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
コラム

次の記事

第214回:昇給の実施方法