第217回:採用難に対して企業がすべきこと

スイスのビジネススクール国際経営開発研究所(IMD)が発表した2023年版の「世界競争力ランキング」で、シンガポールは前年の3位から順位を一つ下げて4位となりました。1位はデンマーク、2位はアイルランド、3位はスイスと欧州勢が上位を占めていました。

日本は6位の台湾、7位の香港、30位のタイ、34位のインドネシアより下の35位になってしまいました。シンガポールは国際貿易(2位)と雇用(2位)、技術インフラ(3位)が高く評価されましたが、価格面では51位で競争力が低いと判断されました。

特に企業や家計がコスト上昇やインフレ圧力に対処できるよう支援することが競争力を維持する上での重要課題とされています。企業にとってのコスト上昇は、「人件費」が大きな要因の一つです。

募集しても人が集まらない傾向はずっと続いており、飲食業界ではこれまで時給8~9Sドルでパート社員の募集を出す例が多く見られましたが、最近では平日に12Sドル、週末に15Sドル、祝日にはダブルペイ(通常時給の2倍)を提示するケースもあり、人材の獲得競争が激化しています。

2023年5月時点の失業率は1.9%でした。前月末から若干悪化したものの、国全体としてはほとんどの人が仕事にありついている状態です。その中で採用活動を行い、適切な人材をいかに採用するか、また採用したら教育・育成をし、いかに定着してもらうかが重要です。

最近、小売業の顧客企業からの依頼で採用面接を代行することが多いのですが、面接時に「良い」と思って採用しても1週間で辞めてしまうケースが頻発しました。すぐに辞めてしまう理由としては、面接時の説明と実際に入ってみてからのギャップが大きいことが一番に上げられます。

ギャップは自分がもらう給与と労働のバランスが合わないことや、採用時のマネージャーと異なる実際の現場の上司との相性が合わないこと、もっと他に良い仕事があるので辞めてもすぐに見つかると思っていることなどから生じます。

では、いかにこのギャップを埋めるかですが、面接の際に求職者は「良いこと」しか話しません。「こういう困難が想定されますが、大丈夫でしょうか」という質問に対しても、「大丈夫です」とポジティブな回答しか返ってきません。

従って採用決裁権のある管理職のほか、現場の上司や担当者に仕事の詳細な内容を説明してもらうことが重要です。できれば職場に来てもらい、仕事の大変さを体験しイメージをつかんでもらうことも、ギャップを埋める一つの一手段になり得ます。

採用するためには、応募してもらい、面接にきてもらうことが必要です。その手段として募集方法を考え、いかに求職者の目を引くかが重要になります。求人サイトに掲載して一定数応募者を集め、その中から採用条件に合った候補者を抽出し、面接を設定します。

それでも面接に来ないケースもあるため、必ず事前にリマインドを入れることが肝要です。売り手市場(求職者が仕事を選べる状況)が続く限り、採用難も続きますが、採用方法を細分化することで効率的な採用ができます。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2023年7月20日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。