第54回 人事担当者のお悩み:その13 ミスマッチ採用を防ぐには

現在ブラジルのリオ・デ・ジャネイロでオリンピックが開催されています。当初は開催を危ぶむ声もありましたが、無事に競技が進んでおり、日本もメダルダッシュで以前より増して盛り上がっています。

シンガポールでもオリンピック史上初めての金メダルを水泳のバタフライ100mで、ジョセフ・スクーリング選手が獲得しました。しかも絶対王者のアメリカのフェルプス選手を破りオリンピック・レコードも取ったことは、シンガポールでも大きなニュースとなりました。

ウェイトリフティング女子48kg級では、日本の三宅選手が銅メダルを獲得したことは素晴らしいと思いましたが、この競技では金メダルがタイ人、銀メダルがインドネシア人と、国旗掲揚の時に、タイ、インドネシア、日本の三国の国旗が上がったのを見た時は感動しました。

タイの国歌もシンガポールの国歌も長く住んでいる身としてはとても嬉しかったです。その他の東南アジアでは、ベトナムが射撃で金メダルを取っています。大会はまだ続いていますが、他の東南アジア参加国からのサプライズ金メダルが出ることを期待しています。

さて、今回はシンガポールの中堅商社の社長からのご相談です。この会社は商社ですが社員数は社長と部下1名の部隊で前任の責任者の帰任後今年より日本の本社から新たに赴任されてきた方です。弊社では採用のサポートをさせて頂き100名の応募者の中から10数名を当該社長と面接し3名の最終選考の中から1名を選びました。

入社して1ヶ月が経ち、とある新規プロジェクトを任せるようにしました。当該社長側は、<任せられること>によりさらにモチベーションが上がると期待していました。面接時にもその旨伝えており、この点問題無いとみていました。

ただ当該新入社員としては、試用期間中にも関わらず、本人が思っているジョブ・ディスクリプションとは違うと思い始め、次第に連絡なしの遅刻も増え、また試用期間中にも関わらず、無給休暇や病欠が増えていきました。もう1名のローカルスタッフには、「残業が多い」、「入社前に言われた事と違う」と中国語で不満を漏らし始めてきました。

ミスマッチング

筆者の場合、前職でそろそろ仕事に慣れてきた新入社員に新しい仕事を与えようとしました所、「それならば、いくら給料を上げてくれるの?」と言われたことがあります。つまり、スタッフはジョブと契約をしているのであって、会社と契約しているわけではありません。

また自分が投入すべき、経験、知識、スキル、努力等をインプットとしますと、それに見合った、給料、ベネフィット、社会的地位等のアウトプットのバランスが取れていないと大きなストレスに発展します。

日本人ですと、新しい仕事を任される=信頼されていると喜ぶ場合もありますが、此方ではアウト・オブ・ジョブスコープの場合、図形で言えば四角(インプットとアウトプットの均衡)の中に収まっている仕事はそつなくこなしますが、それ以外の仕事、言い方を変えれば、四角の中に入っている契約外の仕事は「私の仕事じゃない」という図式になってきます。

その点、不満に思われていることを当該社長はシンガポールでの雇用経験がないことあり驚いていました。しかしながら、入社前に「会社は小規模でこれから成長していくので、通常タスク以外にもプロジェクトは行ってほしい」とは伝えており、もちろん、面接という場もありますが、納得はして入社していたはずです。

「私の仕事はここまで」というスタッフは当該社長としては、今後一緒に仕事していく上では難しいと判断し、結果、試用期間終了を待たずに雇用契約を終了する運びとなりました。ミスマッチを防ぐには入社前の事前説明とジョブ・ディスクリプションは念入りに行うことが重要です。

Daily NNA 2016年8月18日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。