第176回:外国人労働力の減少

筆者は今月17日に新型コロナウイルスの2回目のワクチン接種に行ってきました。10月2日から行動制限が解かれるので、ようやく顧客との商談を近所のカフェでもできるようになります。

ある顧客とは、以前は近くのカフェで定例会議を行っていましたが、筆者がワクチン未接種だったため、役員やマネージャーと商品倉庫でのミーティングを余儀なくされており、迷惑をかけてしてしまったことが接種に出向く大きなきっかけとなりました。

接種会場にいたのは、既に3回目のブースター接種を行う60歳以上と思われる方がほとんどでした。国内では既に2回目の接種完了した人が8割を超える中、政府が先手を打って重症者を出さないようにしているのが感じられました。

コロナ禍を受け、外需や外国人観光客などで成長してきたシンガポール経済もここにきて追い詰められている感が出ています。かつては「ゼロコロナ」を目指して強力な防疫体制を取り、シンガポール版ロックダウン「サーキット・ブレーカー」導入するなど、感染の抑え込みに重点を置いていました。

ただ、足元では、行動制限を伴うワクチン接種の推奨を進めることにより、8割超えという世界的に見ても高いワクチン接種率を達成しながら、感染者が増えているのは事実です。

19日時点の致死率は0.05%と低く「死の恐怖」からは開放されつつあり、「ウィズ・コロナ」時代に入っています。国境制限も徐々に緩和しており、外需を広げ経済活動を活発化させていくのでしょう。

また、シンガポールで仕事をしたい人もEPの仮許可を取って入国申請し、14日間の隔離期間を経てEPを取得後、企業で働く事ができるようになってきました。

シンガポール人材開発省が2021年6月待末時点での外国人労働力の統計結果を発表しました。EP保有者16万6,900人で、20年12月末時点と比べて約1万人減少しました。

前年同月末比で1万6,600人減となった20年12月末時点と比べると、意外と少なかったように思われます。その背景としては、EPの新規取得よりも、「他国へ転職や転勤ができない」「帰国できない」といった状態が続く中、更新や現状維持の事例が多かったのではないでしょうか。

21年6月末時点のSパス保有者もEPとほぼ同様に20年12月末時点と比べて約1万人減となりました。ワークパーミットに関しては、メイドや建設作業員は約1~2%減でほぼ横ばいでした。
弊社ではマレーシア人スタッフが働いていますが、2年間地元のジョホールバルに帰れていません。

シンガポールで働くマレーシア人も「現状維持」の方が多いのが現実でしょう。その他のビザの保有者については、21年6月末時点で20年12月末時点比500人減となりました。これまでDP保有者が就労の際に取得できたLOCが、5月から廃止されたことが影響したのでしょう。

今回の統計では、全般的に当初予想したほど減少幅は大きくなかったものの、政府はシンガポール人の雇用維持に引き続き躍起になっています。ただ、外国人労働者やその家族も受け入れないと「雇用の場」も増えず、そこから生まれる「外需」も伸びません。

「ゼロコロナ」から「ウィズ・コロナ」へと方向転換しつつある今、人事政策も現状維持から採用活動も含め、積極攻勢を仕掛ける時が来ているのではないでしょうか。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年9月23日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。